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それ行け!早乙女研究所所属ゲッターチーム(TV版)!

70年代ロボットアニメ・ゲッターロボを愛するフラウゆどうふの創作関連日記とかメモ帳みたいなもの。

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誘拐狂詩曲(Kidnap Rhapsody)~ritardando~

夜の時間は、ひたひたと止まることなく進んでいく。
星が音も無くきらめく。彼の演奏の邪魔をせぬように。
森の中。少年と少女が見守る中。
機械仕掛けの伯爵は、ヴァイオリンを奏で続けている。
Grave, Fuga, Allegro...
―と。
「…すう」
「!」
旋律によって、穏やかな眠りの世界に導かれてしまったようだ。
かくん、とうつむいた元気の呼吸が、いつの間にか規則正しい寝息になっている。
「元気くん、寝ちゃった…?」
「…」
元気の頭をなぜるエルレーン。
ブロッケン伯爵も、ヴァイオリンを鳴らす手を止める。
…小学4年生には、そろそろ起き続けているのは辛い時間帯だ。
「もう夜も遅い。小僧を連れて戻れ、お嬢」
「ブロッケンさんは…?」
「我輩は、もう少しここにいる」
エルレーンに短く命じたなり、ふっと顔をそむける伯爵。
そうして、また演奏を再開せんと弓を掲げ―
ようとした手が、ぴたり、と止まる。
伯爵の黒い瞳が、今一度、少女を射る。
「…そうだ、お嬢」
「なあに?」
「さっき、我輩が、お前に話したことは…」
何のことか、とは、あえて言わず。
感情の表れない仮面が、抑揚のない声で言い放つ。
「…我輩と、お嬢の間だけの秘密だ。他の奴には言うなよ?」
「う、うん…」
だが、その口調は淡々としていても、眼光の鋭さがエルレーンに二の句を継がせない。
無言の脅迫に命じられるまま、少女は首肯するしかなかった。
…彼女のその様子を見届け、ブロッケンはまた彼らから視線を外す。
やがて、空気を震わせるヴァイオリンの静かな音色が、再び森の木々の間に響き始める。
バッハの無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番。Sarabande.
見えぬ音符が踊る。闇の中でひらめく。
「じゃあね…おやすみなさい、ブロッケンさん」
「…」
演奏に集中しているのか、それとも意図的な無視なのか。
エルレーンの言葉に、伯爵は目線すら投げず。
…仕方なく、少女は、彼の邪魔をせぬよう…眠る元気を起こさぬようそっと背負って、静かにその場を去った。


ざくっ、ざくっ。
飛行要塞グールに向かう足音が、草むらを踏む。
そのリズムに乗り、ゆらゆら、揺らめく少女の背中。
…やがて、少年も、その動きに目を覚まされる。
「う…ん」
「!…元気くん、起きちゃった?ごめんね」
もぞり、と動いた少年に、思わず足を止めるエルレーン。
元気は、気づかないうちに世界が変わったことに少し驚きつつも、まだ眠りから覚めきれず、ぼやんとしている。
「グールのお部屋に帰って…しゃわー浴びて寝ようね、元気くん?」
「あれぇ…ブロッケンさんは?」
「まだ、ばいおりん弾いてるって」
「ふーん…」
ぽやぽやと生返事を返していたものの、自分たちを包む夜の空気で少しずつ目がさえてきたようだ。
突如、はっ、となる元気、自分がエルレーンに背負われているのだと、ようやく気付く。
いい年をして背負われて運ばれてるなんて、何だか恥ずかしい…
まだまだ幼いのにそう思ってしまう自負もある、微妙なお年頃の小学4年生。
「ごめん!自分で歩くよ、僕」
元気は慌ててエルレーンの背から降り、さくさくと自分の足で歩きだす。
エルレーンも軽く笑み、彼の隣に立って歩きだす。
さくさくさく、ざくっざくっ。
夜の森に、刻むリズムの違う二つの足音が輪唱する。
「…ねえ、お姉ちゃん」
「なあに?」
足を止めないまま、前を見つめたまま、元気が呼びかける。
「今日のこと…お父さんやお母さん、リョウさん達には…言わないほうが、いいよね?」
「…」
「言わないほうが、いいんだよね…?」
―さくっ。
立ち止まる。元気が、エルレーンの顔を見上げる。
だから、エルレーンも、立ち止まる。
答える。
「…うん、そうだね」
少し哀しげに、その答えが空に散っていく。
「鉄仮面のグラウコスさんも、鉄十字のルーカスさんも、…僕らに、自分たちのこと、忘れろ、って言う」
一旦、間。


「けどさ…僕は、」
「うん」


「何だか…何だか、それは、嫌だな、って、思うんだ」


元気が発した言葉は、戸惑いに満ちあふれていた。
それでいながら、彼はそれを強く望んでいるようでもあった。
さわさわ、と、風が弄っていく木々の葉が、軽い驚きと非難の声をあげる。
エルレーンは、一度だけ瞬きして…早乙女元気を、見つめている。
「…おかしい、かな?」
「…」
自分でも、自分の発言がまともなのか、そうでないのか、まだ小さな元気にはわかりかねて。
少女に問うも、彼女もわずかに惑っていた。
そうして、またいくらかの間をおいて。
「…ううん」
彼女も、元気と同じだと告げる。
「私も…おかしくない、って、思う…よ」
すうっ、と、少女の目が、夜空に持っていかれる。
星空。無数に瞬く、幾千の星。
「忘れない。忘れられない。…忘れたく、ない」
「うん」
煌めく星の中に、彼女は誰の残像を見たのだろうか?
恐竜帝国によって造られた彼女の生は、短くとも、多くの哀しみに彩られてきた。
知らないほうがよかった。忘れたほうがいい。
けれども。
それが出来ないから、「人間」は…苦しい。
「だから…リョウたちには、ないしょ。そんで…」
ならば。
ならば、いっそのこと。
忘れずにいればいい。
その記憶を抱きしめたまま、その想いに刺し貫かれたまま、血を流せばいい。
きっと、元気も、いつか…
愛する者の間で苦悩し、こころが引き裂かれるような思いをするのかもしれない。
それは、かつての自分がそうだったように。
「私たちだけの、秘密にしよう…ね?」
「うん…!」
その時は、自分も。
自分も、彼と一緒に苦しみ、同じ重荷を分け合おう。
決意を押し隠した微笑を浮かべた少女が、少年にささやく。
少年はその真意を読み取れず、朗らかに笑う。
綺羅星がさざめく、静かな夜だった。


グールまで帰り着いた二人。
与えられた部屋にてくてくと歩いていくさなか…
「!…そうだ」
何やら、思い出したのか。
出し抜けに、目をぱちくりとさせるエルレーン。
「?どうしたの、お姉ちゃん?」
「ちょっと、やらなきゃいけないこと、思い出した…」
聞く元気に、にこり、と笑みを一つ投げ。
「元気くん、先にしゃわー浴びてて、ね」
「えっ、どこ行くの?」
「うん、えへへ…」
それだけ言って、何処かに行こうとする。
ぽかん、となる元気の問いにも、微笑みでごまかして。


そうして、彼女が向かった先は。


「あしゅら様ですか?ご自身の部屋にもう戻られましたよ」
「どこの部屋?」
「あちら、角を曲がって…一番端の扉です」
廊下ですれ違った鉄仮面兵に問うと、彼はすでに艦橋(ブリッジ)から自室に戻ったらしい。
彼にその部屋の場所を聞き、そちらに向かう。
長い通路を歩いて、歩いて、指示された角で曲がって…
さらに歩いて、歩いて、歩いて、一番端にある部屋の前。
扉のノブに手をかけると、施錠されていなかったドアはがちゃり、と容易く開いた。
開いた扉の先、エルレーンが見たものは…
「?!」
「?!…小娘?!何の用だ!」
…一瞬、エルレーンの目が点になる。
室内にいた人物は物音に振り返り、ノックもせずに入ってきた闖入者に非難と驚き半々の声をあげる。
だが、それは一体誰だ…?
そこにいたのは、女性。
足首までありそうな丈の長い、袖のない白い衣服を身にまとっている。
女にしてはかなりの長身、だが身体つきは引き締まり、頑健さすら見て取れる。
金色の髪を後頭部で一つに結った、この蒼い瞳の印象的な女…
美女、と呼んでも一向に差し支えはない、整った顔。
華やかさ、力強さ。その両者の共存。
嗚呼、だが、しかし…
今までこんな女性を、鉄仮面兵と鉄十字兵tばかりがうろつくグールでは見かけもしなかった。
一体、この飛行要塞の何処にいたというのか?!
そして何故、あしゅら男爵の部屋にいる?!
「えっ…えっ?!だあれ?!」
「…私だ」
混乱する少女を前に、軽く眉をひそめたその女。
事も無げに、短くそう答えた。
頭上に大きな「?」マークを浮かべたままのエルレーン、困惑気味に彼女を見返す。
だが、よく考えれば当たり前のことだ…
エルレーンは、その人に会うためにこの部屋に来たのだから。
だから、ここにいるその金色の美女、その正体は…
「…あしゅら、さん?」
「そうだ」
うなずくその女は、やはり…あしゅら男爵、らしい。
「魔力を練るには、この姿のほうがやりやすいのでな…何故か」
「あしゅらさん、変身とかできるんだ…すごいねえ!」
どうやら、彼は自らの見た目を変えることができるようだ。
そのあまりの変身ぶり、不可思議な能力に、エルレーンは目を見張るばかり。
「…そう言えば、あの女の人…森で私たちに声かけてきたあの人も」
「そうだ、私だ」
「へーえ…!」
思い返してみれば、早乙女研究所近くの森で拉致された時…自分と元気の前に現れたのも、女性だった。
姿かたちを変じることなど、男爵にとっては造作もないことらしい。
あしゅら男爵の異能力に感嘆の声をあげるエルレーン。
―と。
少女の表情が、ぱっ、といたずらっぽいものに変わる。
「じゃあね、じゃあね!…私、とかにも、変身できるの?!」
「ああ…やって見せようか?」
「うんッ!」
興味本位な少女の問いに、「お安い御用だ」とばかりに笑む、金色の女。
軽く手を空中にひらめかせ、瞳を閉じ、集中して、
「よかろう…ふッ!」
「!」
気合一閃!
瞬時、彼女の全身が金色の光で包まれる、その眩さにエルレーンは耐えきれず目を閉じる。
そして、彼女が再びまぶたを開いた時、眼前に立っていたのは―
「…!」
「ふふん…!どうだ?」
不敵に笑む、自分自身!
少しくせっ毛の髪、透明な瞳、しなやかでスレンダーな身体。
「わあぁ…すごい!すごいのぉ!」
「ふふん…」
素直で率直な称賛の言葉に、調子に乗りやすい怪人は至極ご満悦の様子だ。
きゃらきゃら喜ぶエルレーンと、腕を組んで満足そうに鼻を鳴らすエルレーン(もどき)。
と、さらに少女の要求はエスカレートする。
「…ねぇ、ねぇ!じゃあ…『ぼいんちゃん』な私とかにはなれないの?!」
「…はあ?」
…それも、よくわからない方向に。
どうやら、姿はこのまま、胸だけ大きくしてみろ、ということらしいが…??
当惑を隠さないエルレーン(もどき)に、なおもエルレーンは言い募る。
「『ぼいんちゃん』の!『ぼいんちゃん』の私!」
「…随分こだわるな…まあ、構わんが」
何度もその単語を連発してねだるものだから、もどきも首をひねってはいたが…
彼女のご希望通りの姿に変わって見せた。
金色の光がまたエルレーンの目を焼き、そしてその光が失せると…
「…!」
「こんなものか…?」
「わぁぁぁぁい!わぁぁぁぁい!『ぼいんちゃん』の私なのぉ!!」
たゆん、と、重たげに揺れる、二つの双丘。
黒いバトルスーツ、その胸には、本物の彼女にはない大きな盛り上がりが生まれ、その胸乳の間には深い谷間。
細身の身体に対して胸部だけがやたらと派手に目立っているという、アンバランスで肉感的な姿。
目の前に出現した自分の夢に、エルレーン、まさに狂喜乱舞。
飛び上がって喜ぶ様子に、もどきは困惑気味だ。
「…うれしそうだな」
「すごい、すごいの…こんなに、おっぱい、おっきく、て…」
「?…どうした、小娘?」
「…っく…ひいっく、うううッ…!」
「えっ、泣いてる?!」
が、まあ。
自分の理想を具現化した姿を目の当たりにしてしまえば、ひるがえって、そうではない自分の身が哀れに見えてきてしまうもので。
己の胸のぺたんこさを改めて自覚させられたのか、哀しくなってしまったらしいエルレーン…いつの間にやらぺそぺそとしゃくりあげている。
「うぐっ、えぐっ…ほ、ほんものは、いつまでもっ、ちっちゃいままなのに…いっ」
「こ、小娘…あまり気に病むな。気に病めば、大きくなるものもならんぞ」
「…うええっ、っく…!」
一方、何だかよくわからないことを言われ、何だかよくわからないうちに泣き出す少女を前に、困ってしまっているあしゅら。
やはりよくわからないうちに、しくしく泣くエルレーンを慰める…
「そ…それよりも、だ。…こんな夜中に、私に何の用だ?」
「あ…」
再び、長身の女性の姿に戻ったあしゅら。
やや低いアルトの声が、来室の意図を問う。
そこでやっとエルレーンは本来の目的を思い出したのか、慌ててごしごしと目をこすり。
改めて、あしゅら男爵に向き直り、告げた。
「えっと、ね…ありがとう、言いに、来たの」
「?」
男爵殿は、礼を言われる理由に見当がつかぬらしく、少し片眉を上げたのみ。
少女は、少し照れたような顔で、金色の女を見つめて、言う。



「私を、叱ってくれて、ありがとう…」



「あの時。あの攻撃を、受けた時」

「あしゅらさんは、言ってくれた…思い出せ、って」

「だから、思い出せた。
私の『母親』は、『おかあさん』は…」

「ルーガは、そんなこと言わないって、思い出せたの」



「だから…ありがとう、あしゅらさん」
「…ふっ」
エルレーンの感謝の言葉に、蒼い瞳が微笑んだ。
「当たり前だろう?…そうでない『母親』がいるとは思いたくない」
それは、断言に近かった。
いや、むしろ…それが必然であるかのように、彼…いや、彼女は言うのだ。
あしゅらはあの時言った、「我が子を黄泉の世界へ『連れて行こう』とするような『母親』がいてたまるか」と。
あしゅらはあの時言った、「お前の『母親』はそんなことを望みはしなかったはずだ」と。
その言葉がエルレーンを死の幻惑から引き戻し、彼女を救った。
今彼の口から出た言葉も、その時と同じ強さを持っていた。
「…あしゅらさんも、」
だから。
だから、少女は…ふと、思ったのだ。
「あしゅらさんも、もしかしたら…『おかあさん』なのかな?」
「?」
強固な信念をもってそれを語れるのは、彼自身も以前は「母親」だったからではないか?
そんなエルレーンの素朴な思い付きに、あしゅらは目を軽く見開く。
「えっと、なんか…そんな、気が、した」
「…ふん、そうかも…な」
くすくす、と、おかしそうに笑う。
「そうだな。そうだったのかも知れぬな?」
金色の絹糸が、彼女の笑いに合わせてきらきら揺れる。
蒼い瞳の美女は、軽くうなずきながら、顔をほころばせる。
「私が、『あしゅら男爵』として意識を取り戻した時も。
何故か…この姿には、自然に変身できた」
「へえ…」
「これが、きっと。私の本来の姿なのかもしれぬ」
軽く首を傾げれば、ポニーテールに結われた金色の髪が、しゃらん、と鳴る。
蒼い瞳をまたたかせ、あしゅらはふむ、とあごに手をやり。
「そうだな…」
また、嘆息。
少女の言葉を、噛み締める。
「私たちが、生きていたころ…私たちには、『子ども』がいた…そんな、気がする」
あいまいな言葉。だが、そこにこもるのは、確信。
自分は「母親」であったと(そして「父親」であったと)、愛する「子ども」をもっていたはずだ、と。
数十年、数百年、どれほど以前のことかすら定かではないし、わかりようがなくても。
それどころか、確信に至らせるまでの記憶の欠片、それすら見いだせていなくとも…
「まあ…貴様のような、行儀の悪いわがまま娘でなかったことを祈るがな?」
「む、むー!」
「はは、何にせよ…そのあたりもまったく思い出せぬのが口惜しいな!」
あしゅらの軽口にむくれる少女に、にっ、と笑みを投げてみせる。
やはり、彼はけろり、としている。異常なほどに。
記憶を失っていることに対しての苦悩も、狂乱も、鬱屈もなく。
元々深く考えない性質なのか、それともそれは、二つの魂が一つの肉体の中で混在し混線してしまったための障害なのか。
「だが…それでも、少しだが覚えていることもある」
ふと。
蒼い瞳が、にわかに真剣みを帯びる。
「魔法もそのうちのひとつだ」
「まほー?」
おうむ返しに繰り返す少女に、うなずいてみせる。
魔法。
この世界においては、幻想小説(ファンタジー)にしか存在しない、科学の範疇を超えた神秘の技。
エルレーンにとっても、それはただの想像やお話の出来事としか思えなかったが…
「そうだ…とはいえ、それに関する記憶も、あまり多くは思い出せていない…
当然、私の魔力もまだそれほどには高くはない。
軽い傷を治す、小さな炎を生む程度が今の限度だ」
「あ…」
そう言えば、百鬼帝国との戦闘中に出来た額の切り傷…
あしゅらが手をかざし何かをつぶやいた途端、それが跡形も無く癒えたことを、少女は思い出す。
…あれが、彼女の魔法、なのだ。
「しかし、そんな乏しい魔力でも…練り上げれば、護符のひとつくらいは作れる。
身を護るための宝珠…戦士を護るモノ、それに、例えば」
歌うように、何処か芝居じみた言い回しの台詞を口にしながら。
あしゅらは水晶のそばに置かれたモノを取り上げる。
そうして、ちらり、と、茶化すような、からかうような視線をエルレーンに投げる。
「例えば…『死にたがり』の小娘を護るモノ」
「し…え、ええっ?」
「…だから、お前にはちょうどいい」
あしゅらの発した強い言葉に目を白黒させるエルレーン。
彼女の困惑を意に解することもない金色の髪の女性は、何やらうそぶきながら…少女の眼前に、それをぶら下げて見せた。
「つい今しがた、完成したばかりだ」
「…?」
「今回の詫び…というわけではないが。お前と、小僧にこれをやろう」
そう言いながら、エルレーンに差し出してきたモノ。
革紐が通された、コインほどの大きさの…碧く煌めく石。
エルレーンと元気の分、ひとつずつ。
光を吸い込み、妖し気に違った色の光をはじき返している。
「わあ…きれいだねえ!これ、なあに?」
「これは、一種の守護珠だ。私の魔力を込めてある…
身に着けていれば、何らかの生命の危機が迫った時、一度だけ身代わりとなってくれるだろう。
…まあ、限度というものはあるが…たいていの攻撃なら、宝珠が受けとめ、代わりとなって砕け散る」
きらきらと輝いて揺らめくその碧い石に、少女のこころが吸い込まれる。
こんな小さな石にそんな力が込められているとは…
「へえー、ばりあみたいな感じ?おもしろーい!」
「以前から魔力を少しずつつぎ込んできた、作りかけのものだったが…やっと先ほど二つ完成した。
…やれやれ、久々に魔力を酷使したぞ!」
少女の反応に気をよくしたのか、明るく製作の苦労を語ってみせるあしゅら。
どうやら、先ほどからこれを作るために、金色の髪の女性の姿に為っていたようだ…


「小娘」
刹那。
その表情がにわかに変わり、真剣なものとなる。
見据える。
透明な瞳の少女を。
あの、鬼神のような荒ぶる戦いぶり。
恐竜帝国の「兵器」。
「母親」の幻影に惑わされ、黄泉路に片足を踏み入れようとした「子ども」。
―目の前の、「死にたがり」の少女。
「ブロッケンは言っていた…あれは、強力な催眠のようなものだと」
そうだ。
あの陰気な出来損ないの機械人形も、「何か」を見たのだろう。
「だが、催眠術で人は死なん。『人間』には、生きようとする本能というモノがあるのだからな」
しかし、奴は自力でそれから脱した。
独力でそれができず、そのままずぶずぶとあの怪光線の見せる幻惑に沈み込んでいったのは―この、小娘。
すなわち、小娘がそうなったのは…


「催眠術で死ねるのは…」

「…自ら、死のうとしている者だけだ」
「…」


暴かれたその理由を突き付けられ、エルレーンは何も言い返す言葉を持たなかった。
ただ、静かに唇を噛む。
あの時の愚かしい自分を…あるいは、純粋に己の望みに従った自分を…恥じているのか。
下を向き、黙りこくってしまう少女。
彼女を見やり、あしゅら男爵は…言葉を継ぐ。
「小娘。お前が何を思って死に急ぐのかは、私の知った事ではない。…だが、」
そこで、一旦、言葉を切り。
金色の女は、蒼い瞳で少女を見る。
「…お前は、まだ…生きているだろう?」
呼びかけるように。
説きつけるように。
「死にたがり」の少女を、蒼い瞳が貫き。
「まだ、時間があるじゃないか…!」
「…!」
その言葉が、エルレーンの鼓膜を揺さぶった刹那―
透明な瞳に、涙が浮かんだ。


それは、まったく、同じ言葉だった。
同じ言葉だったのだ。


あしゅら男爵は知るはずがない。知っているわけがない。
嗚呼、けれど…この人は、いや、この女(ひと)は、同じことを言った。
あの気高き女龍騎士、エルレーンにとってたった一人の「ハ虫人」の「トモダチ」と、同じことを言ったのだ。
脳裏によみがえる、あの女(ひと)の顔。
ゲッターチームとの戦いの中、葛藤に苦しみその挙句に自死を選んだ、あの時。
死の縁で見た幻影の中、現れたあの女(ひと)。
…あの女(ひと)と同じことを、言ったのだ。
「小娘、死ぬのは…哀しい事だぞ。
それに、何もそう急がずとも…時が来れば、相手のほうから勝手に迎えに来る」
あしゅら男爵は、軽く笑って、エルレーンに言う。
軽くたしなめるように。穏やかに慰めるように。
嗚呼、何故。
何故、この女(ひと)も…ルーガと同じことを言うのだろう。
「出来る限り、生きていろ」、と。


「だから、それまで…生きておればいいだろう?」
「あしゅら、さん…」
「せいぜい楽しんで生きればいい。それが一番だよ、小娘…」


何故、同じことを言うのだろう。
それとも、それは…「母親」たるものが、皆一様に「子ども」に対して望むことなのだろうか?
記憶のない、自らの「名前」すら失って思い出せない、この怪人も。
かつては自分の娘にそう語っていた「母親」だったから、なのだろうか―?


くっ、と、金髪の女性の唇が、笑みを形作る。
次の瞬間、金色の残像を空間に残し、両性融合の「バケモノ」がエルレーンの眼前にたちあらわれる。
「…だから、そのために、これを。
一度だけなら…この宝珠が、お前のいのちを危機から守るだろう」
男女のユニゾンが、そうささやきながら。
「死にたがり」の少女に、碧き護り珠を渡す。
「…うん」
エルレーンが浮かべるのは、微笑。
つぎはぎの怪人も、奇妙で奇怪な姿の両性具有(アンドロギュヌス)も、微笑。
少女の手の中で、鈍く輝く海のような碧。
光がきらきら、「生きろ」、「生きろ」と、揺らめいている…
その輝きを、そっと握りしめ。
エルレーンは、生の感触を確かめた―



「ありがとう、あしゅらさん」


拍手[2回]

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サイト更新しました(*˘◯˘*)

誘拐狂詩曲(Kidnap Rhapsody)~pianississimo~
http://yudouhu.net/novels/gtr/kidpiani.html

夏までに終わらせたいんですよ
できれば続編もそれぞれ、あしゅら/ブロッケンともども書きたいので
そのプロット組みもやっています


仕事が繁忙期に入りました(哀)
あと、資格試験も近いです
ああ~地味に忙しいんじゃあ~( ;∀;)


そういやこないだずっとなくしていたと思ったpixivのパスワード見つけたんで、
放置していたそのアカウントに過去に書いた小説を入れていってます
自分の昔書いた小説、懐かしい思いでコピペしています(n*´ω`*n)

拍手[1回]

誘拐狂詩曲(Kidnap Rhapsody)~pianississimo~

*この話は、中編小説誘拐狂詩曲(Kidnap Rhapsody)の続きです!
これまでの話は↑からどうぞ(*˘◯˘*)


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誘拐狂詩曲(Kidnap Rhapsody)~pianississimo~
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「ブロッケンさーん!どこ行くのぉ?」
「…!」
ブロッケン伯爵の歩みを止めたのは、その静かな森に不釣り合いなほどの明るい少女の声。
虚を突かれた彼が振り返ると、いつの間につけてきたのか…そこには、エルレーンの姿があった。
…それを見た彼の表情に、多少ばかり面倒くさげな色が浮かぶ。
「…別に。たいしたことじゃない。…帰れ」
「えー?」
率直に追い返そうとしたものの、少女はめげる様子すらなく。
むしろ、ちょこちょことブロッケンの傍に走り寄ってきて。
「それ、なあに?」
「…」
「ねーえ、それ、なあに?」
「…」
嫌そうな雰囲気を押し隠しもせず発散しているブロッケンに対して怯む様子もなく、彼の右手に持った少し大きめのモノを指して問いかける。
どうやら、楽器ケースに興味津々のようだ…
困惑と煩わしさが少しばかり、無表情気味の伯爵の顔に浮かぶものの…少女はそういったものを敏感に感じ取れるような性質ではないようだ。
数秒ばかり、無言という態度で返答していた伯爵だが。
…やがて、それも無駄だと悟ったか、けだるげな吐息と入り交ぜてエルレーンの問いに答えた。
「…ヴァイオリン、だ」
「ばいおりん?…ばいおりん、って、なあに?」
「…楽器」
「へーえ!どんなの?見せて見せてぇ!」
「…」
どうやら、彼女は「ヴァイオリン」自体を知らないのか…
新たな言葉、新たな概念に、ぱっ、とその瞳が知的興奮で輝く。
今度こそはっきりと、ブロッケンが嫌そうな顔をしたが…好奇心を刺激されてしまったエルレーンは全然それに気づくこともなく。
きゃらきゃら笑いながらその楽器を見せろとせがんでくる。
仕方なく、ブロッケンはケースを大儀そうに開き…中で眠っていた、その使いこまれた弦楽器を彼女に手渡した。
「ん~…?これ、吹くとこ、どこ?」
「…?」
「はーもにかみたいに、吹くとこがないねえ」
それをうきうきと手にし、くるくると回して観察する少女…
しかしながら、吹き口?がないことに不思議そうな様子だ。
「吹くものじゃない…弾くものだ」
ブロッケン伯爵は、左腕に抱えていた己の首を胴に据え付け、ヒトの姿に為る。
そうしてから、彼女からヴァイオリンを取り上げ…
左肩と、左顎の間に軽く挟むように構え。
右手に持った長い棒…「弓」を軽くヴァイオリンの弦に当て。
―軽く身体をしならせ、引く。
「わあ…!」
思わず、声をあげるエルレーン。
木立の間を、なめらかな音が渡っていく。
風がさわさわ、と、葉擦れの音をその伴奏と変えて。
バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番が、彼女以外観客のいない夜の中で、静かに鳴り響く。
エルレーンは目を閉じ、うっとりとその音色に聞き入る。
人里離れた森林、星空の下。
奏者は一人。観客は一人。
たった二人の、コンサート。
「おーい、エルレーンのお姉ちゃん!」
「あっ、元気くん!」
「ブロッケンさんと、何してるの?」
―と、そこに。
後を追いかけてきた、早乙女元気。
…やかましい観客がまた一人増えたことに、伯爵はついまた深いため息をついてしまった。
「見てぇ、『ばいおりん』って楽器、だって!」
「バイオリン?」
「ブロッケンさん、楽器が使えるんだねぇ…すごいねぇ」
先ほどまでの静けさが嘘のように、にわかに騒がしくなった森。
…百鬼帝国との戦闘(と、その後のエルレーンとのやり取り)。
そのせいで苛立つ自分自身を落ち着かせようと、独りでやってきたのに。
何故か子ども二人に絡まれ、周りできゃわきゃわとやかましい…
そんな沈痛そうなブロッケンの表情にはまったく気づくふしすら見られない二人、楽し気にしゃべっている。
…すると、その会話の矛先が、突然自分にも向いてきた。
「ね、もっと聞かせて?ブロッケンさんの音楽、聞かせてほしい…な」
「あー、僕も聞きたい!弾いてみてよ、ブロッケンさん!」
「…ね?だめぇ?おねがーい!」
「ねー!ねーってば!」
きゃわ、きゃわわ、きゃわわわわわわ。
まったく、子どもの会話というのは…どうしてこんなに、けたたましいのだろう?
無駄にエネルギーに満ちあふれていて、それでいてこちらの話を聞かず…!
…無意識のうちに、頭痛でもこらえるかのように、ブロッケンは額に手をやってしまっていた。
「…」
しかしながら、抗弁しても無駄であろうことは、先ほどのエルレーンとの会話でとうに知れていた。
やっても無意味なことは、繰り返す意味がない…
合理的判断は、正しいながらも面倒なことを彼に強いる。
不承不承、彼は…うるさい子どもたちのリクエストに応えざるを得ない。
「はあ…」
せめてもの皮肉に、当てつけがましいため息をわざとらしくついて見せるものの。
きゃわきゃわとした子どもたちは、そういったものを理解してはくれず…むしろ、わくわくきらきらした目でこちらを見つめ返してくる。
沈黙したまま、ブロッケンは再びヴァイオリンを構え、右手の弓を空に舞わせる。
弓はゆっくりと弦の上を滑り、音楽を奏でだす。
「わあ…」
「…!」
ヴァイオリンが生み出す豊かな音のストリームに、思わず声をあげるエルレーンと元気。
ぺたり、と、地面に座り込み、曲に聞き入る。
軽く目を伏せた伯爵は、既に幾度も弾いたその曲を、容易く演奏し続ける。
白い手袋が、踊っている。
弦とフレットの上で軽やかにステップを踏む左手の指、緩やかに行きつ戻りつする弓を操る右手。
その下に、鋼鉄とパイプが形作る機構があろうとは、誰がわかろうか…
バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ。今度は、第2番・Andante。
切なさを含んだメロディーが、少女たちの鼓膜を、こころを揺らす。
人里離れた森林、星空の下。
奏者は一人。観客は二人。
たった三人の、コンサート。


しばし、時と旋律だけが、その空間を不可思議に埋め。
やがて、伯爵の脳内にある楽譜も、最後の部分に差し掛かる。
高い音、低い音。移り変わり、
そして…ことさらにゆっくりと弓を引けば、長く長く音が伸び、それが曲のエンドマークとなり…
引き抜いた弓が、すうっ、と、ヴァイオリンから離れて空に浮く。
ふつり、と。
余韻を残して、音が森に吸い込まれ…消えていく。
奇妙なコンサートは、そうして、終わった。


静寂。
その場の空気が、静止し―豊かな無音が、数秒続いた後。


「わー!すごいねぇ、きれいだねぇ!」
「…それは、どうも」
きゃらきゃら笑いながら、ぱちぱちと拍手するエルレーンと元気。
惜しげもない称賛に、しかしながら…鋼鉄で組まれた伯爵殿は、金属並みに冷たい答えを事務的に返すのみだった。
「ブロッケンさんは、音楽が好きなの?」
「…別に」
元気の問いかけにも、別段、うれしそうでも、楽しそうでもない。
平坦な口調で、短く、そう言うだけ。
それは、嘘をついているようには到底感じられず、ただ事実として述べているだけのように聞こえる。
「ただ…気を落ち着かせたい時に、弾いてみるだけだ」
「そうなの?」
「そんなに上手にばいおりん弾けるのに…」
エルレーンの「どうして?」という感じのセリフにも、目線を合わさず、何も言わず。
何処か投げやりな、無気力、無関心。
色のない、色の見えない、ブロッケン伯爵の表情を見やりながら…元気は、先ほどあしゅら男爵が言い放った言葉を思い出していた。



(あいつは、『死にたがり』だからな)

(あいつは、生きてはいない。生きようとしていない。ただ、死んでいないだけだ)

(自ら生きようと、あがこうとしない。自ら生きようと、望みすらしない。
死神の影を引きずって、引きずったままで、ただこの世に『存在している』だけだ)



それ故、この「バケモノ」じみた、サイボーグの男は。
音楽も、何であっても…まるで、「自分は楽しんではいけない」としているようで。
「…でも、僕は」
けれど、元気にとっては、それは何だか辛い、哀しいことのように思えたから。
この「死にたがり」の伯爵が、かわいそうに思えてしまったから。
…だから、つい、伝えたくなってしまった。
「いい、って、思ったよ…すごく」
彼の音楽が、素敵だった、と。
それを作り出せることが、素晴らしいことだ、と。
…例え、その言葉が、彼にとっては何の役に立たなかったとしても。
「ブロッケンさんのバイオリン…好きだよ」
「…」
幼い少年の、飾り気のない、拙い…けれどもまっすぐな好意。
それを向けられた伯爵は少し戸惑ったのだろうか、しばし言葉を失う。
普段、周囲よりは畏怖と憎悪、忌避しか受けぬ我が身。
そこに突然かけられた純粋な温かさに、意表を突かれて面喰らったのか。
素直にそれを受け取るどころか…軽く首をひねり、こう言ってのけるのだ。
「…おかしな、ガキどもだ」
好意に、軽い嘲りで返す。
けれども、その言葉自体は悪いが…口調そのものは、心なしか穏やかだった。
「おかしなガキだな、お前は」
「ちょ、ちょっとお!」
だが、まあ…小さい子どもに、そんなかすかな機微などがわかるはずもなく。
繰り返すブロッケンの憎まれ口めいた言葉に、ぷんすか怒る元気。
「せっかくほめてるのに、そうゆう言い方はないんじゃない?!」
小学4年生にしては割と身長も低めのちびっ子が、胸を張って抗議する。
「そうゆうのって、よくないと思うなあー!」
世界征服をもくろむ悪の科学者、ドクター・ヘルの部下、破壊の権化たる機械仕掛けの伯爵に向かって、ぷんぷん怒る早乙女元気。
むーっ、とむくれた顔で、さらに主張する。
「大体!僕の名前、『ガキ』じゃないし!…僕には、『早乙女元気』って立派な『名前』があるんだい!」
「…そうか」
そう、ちまっこい子どもだけれど、立派な「名前」があるのだ。
だからそう呼べ、と、邪悪の化生に要求する小学生。
…伯爵は、ただ、一言を返すのみ。
「そうだよぉ…『名前』は、とーっても大事なものなんだから!」
さらに、エルレーンもそこにかぶせてくる。
「名前」の大切さを力説する…
それは、「人間」の精神を、魂を固定する、重要なもの。
そのことを、彼女は自らの経験をもって強く強く認識している。
記憶を失ったあしゅらも、失ったそれを探し求めている…
それほどまでに大切なものなのだ、「人間」にとっての「名前」というモノは。
「ブロッケンさんは…『はくしゃく』ってのが『名前』なんだよね?」
「…はあ?」
…と。
エルレーンの口から、ぽん、と飛び出てきた、ピント外れの問い。
予想外の質問に、伯爵は我知らず眉をひそめる。
「だって、元気くんは『早乙女』がミョウジで、『元気』が名前…でしょ?
だから、ブロッケン伯爵さん、だからぁ…『ブロッケン』がミョウジでぇ」
「…違う」
どうやら彼女は素朴にも、「フルネームの上半分が名字・下半分が名前」と思い込んでいたらしい。
しかしながら、もちろん「伯爵」とは称号(タイトル)であって「名前」ではない。
「え、そうなの?…それじゃあ、ブロッケンさんの『名前』って、何て言うの?」
「…」
彼女の疑問は、止まらない。
止まらないままに、エルレーンは知らずと触れてしまう…
伯爵が、心の奥底に押し込めてしまったことに。
ブロッケンの眉が、ぴくり、と、不快気に上がる。
何かを即座に言い返そうとして、だが…一旦、口を閉ざす。
どう言えばいいかを、少々逡巡しているようだ。
さわさわ、さわさわ、と、そよ風が先を急かしてくる。
もう一度、男が、口を開く。
「…ない」
「?」
よくわからなかったらしい二人が、目をぱちくりさせる。
伯爵は、もう一度反復する。


「今は、もう…ない」


「ない…?」
「どうして…?」
実際のカタチのないモノ、それが「ない」…?
ブロッケンの言うことが理解できないエルレーンと元気。
…嘆息とともに、伯爵は吐き出す。


「…置いてきた」


「えー?『名前』、落としたの?どこにぃ?」
「お…お姉ちゃん、たぶんそういうことじゃないと思う…」
意味が飲み込めずすっとぼけたことを言うエルレーンに、さすがに元気が言葉を挟む。
それでも何やらわかりきっていない様子だったが…次に伯爵が見せた言動で、彼女もやっと理解した。
情で彩られない、凍てついた顔で。
機械仕掛けの伯爵は、先を続けた。
「…見てわかるだろう。我輩の姿を」
はっ、と、短く息をつき。
手にしたヴァイオリンと弓を、ケースに置き。
ブロッケン伯爵は、おもむろに自らの頭に両手をかけ…ぎっ、と、ひねった。
刹那、ぎりっ、と音を立て、本来であればそこで断ち切れるはずのない場所で…首が、取れる。
左腕が、そのまま抱え込む。彼の、首だけを。
その動作は、どこか露悪的で。
自分が人間離れしているさまを、二人に見せつけんとしているようで。
左腕に抱えられた生首が、淡々と言い放つ。
異常な姿で、異常な言葉を。
「我輩は…一度死んでいる。死んで、こんな有様になっている」
その口調はまったく、感情のぶれというものが感じられなかった。
平坦に、そう吐き捨てる。
もうすでに、彼の中でそれは「どうでもいい」ことであるかのように。
「…」
元気の中で、またあの時にあしゅら男爵が言った言葉がよぎる。
…彼は、今ここに在ることすら、倦んでいるのだ。
「だから、その時に。『人間』としての『名前』は…置いてきた」
そう、それ故に。
今の自らを、彼はその端的な言葉で表現する。
彼は自分を最早「人間」だとは思っていない、現在の自分の姿を―
「『バケモノ』に、『人間』の『名前』など…必要はないからな」
眉一つ動かすことなく、ブロッケンはそう断じた。
強張った、表情のない顔で。
その中で、異様を放つのは、その瞳…
…黒い瞳。
そう、黒い瞳だった。
真っ黒で、何の光も映さない。
「でも…」
それでも。
そのうろ暗い瞳に気おされながらも、エルレーンは言った。
かすかに細い声が震えたのは…怖じたからではない。
「ブロッケンさんは…私を、助けてくれたよ」
それは、こころがさざめいたから。
自分と同じモノを見た、自分と同じ哀しみを知っている、その男の言葉に。
闇に落ちた自分に、過去を語り…慰めの言葉をかけてくれた、その男に。
「だから、ブロッケンさんは…『バケモノ』じゃないの」
透明な瞳に、少女の網膜に、さかしまに映り込む、軍服姿の男。
己が頭蓋を、己が腕で抱えるという、「人間」では到底あり得ない身体。
デュラハン(首なし騎士)のおぞましいその有様を見て、彼女は―そう断言した。


「…」


少女の声が、森の空気の中に散っていく。
ブロッケン伯爵の黒い瞳が…わずかに、揺らめいた。
それでも彼は、「バケモノ」たろうとする彼は…冷たく少女の言葉を拒絶する。
「そんなもの…ただの、成り行きだ」
「…」
冷淡な拒否。
エルレーンの表情を、哀しみがかすめる。
―けれども。
「…でも、」
今度は、少年の声。
元気は見つめる。
「バケモノ」を。
あの戦いのさなか、エルレーンを決死の覚悟で…己の腕すら失うことすら辞さぬ覚悟で、救った彼を。



「誰かを、助けることができるヒトは…『バケモノ』なんかじゃ、ない、って…僕も、思う」



「…」
刹那。
…伯爵の表情が、一瞬。
一瞬だけ、変わったのを、二人は確かに見た。
軽く目を見開き、自分たちを見返した、その瞳。
軽い驚きと、困惑と。
苦笑のような、微笑のような。
ただ、それだけ。
それだけなのに、何故か…伯爵の表情は、ひどく「人間」くさいものに見えたのだ。
凍りついた、自ら凍りつかせた、常に彼が張り付けている仮面ではなく―


―しかし。
それはやはり、一瞬。
ほんの一瞬だけの、油断。
元気たちの視線に気づいた伯爵は、すぐさまに…
冷酷で冷淡な仮面で、自身の惑いを、「人間」らしさを覆い隠してしまう。
「ふん…」
それは、そんな自分の姿を見られた、彼の照れ隠しなのかもしれない。
視線をわざと、遠くへ投げて。
機械仕掛けの怪人は、再び首をあるべき場所に据え。
子どもたちのほうを見ずに、またヴァイオリンを拾い上げ、構え…弓を引く。
黒い夜。満天の星々。何処か哀しげな旋律。
ブロッケンは、ただただバイオリンを奏で続ける。
エルレーンと元気は、最早…口を開くこともせず、孤独なそのメロディーに耳を傾けていた。

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ワイ将の小説における「あしゅら男爵」について

今連載している(ええかげんに終わらせんとアカンwwwwww)誘拐狂詩曲(Kidnap Rhapsody)を読むときに。
この中篇作品には、「マジンガーZ」のキャラクターが登場しています。
ですが、これらのキャラクターの設定はゆどうふ設定です(下敷きにしているネタはありますが)。
そのため、彼らの過去などについてはゆどうふの捏造にすぎませんので、その点ご了承ください。


--------------------------------------------------
● あしゅら男爵
--------------------------------------------------
ドクター・ヘルによって甦らせられた長身の怪人。
彼がミケーネの遺跡から発掘した男女一対の夫婦のミイラを素体に、
欠損した半身を継ぎ合わせるようにして造った。
性格は…普段は落ち着き払っているものの、どうも抜けたところがある。
そのため光子力研究所攻撃の作戦も失敗の連続で、そのたびに
ドクター・ヘルに詫びまくる。
同僚になるブロッケン伯爵とは超絶に仲が悪い。


↓ここからゆどうふ設定
彼・彼女は、古代ミケーネ(暗黒大将軍たちの時代よりもっと過去)の将であった
「エンデュミオン」「ラオダメイア」である。
剣聖、姫将軍とうたわれた二人であったが、一人娘を病で失った際に、
そのいのちを助けんと、禁忌とされていた魔術を使ってしまう。
魔術は失敗し、彼らは娘同様にいのちを失う羽目になった…
しかし再び生を取り戻した時、その二つの魂は、たった一つの身体に無理やり詰め込まれたがために
その記憶を失ってしまっている(同時に、思考などにも混乱をきたしている)。
彼らはその記憶を、自分たちの「名前」を取り戻すことを望み、己の故郷を探してさまよっている。
この設定は、ショートストーリー"The invincible Couple(「無敵の二人」)"とつながるものである(まだ完成してないけど^-^;)


なお、この過去話はパソコンが壊れた時に全部失われたんだな、これが( ;∀;)!
もう書けるか自信ないわ…細部だいたい忘れたわ…


私の小説の中では、彼は「記憶を失い、自分の『名前』を探す怪人」です。
エルレーン・早乙女元気との関わりで、少年少女たちは何を得るのか。
そして、彼自身は何を得るのか…?
そういうカンジの話です(*^○^*)


メモ
http://getterteam.anime-japan.net/Entry/79/

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ワイ将の小説における「ブロッケン伯爵」について

今連載している(ええかげんに終わらせんとアカンwwwwww)誘拐狂詩曲(Kidnap Rhapsody)を読むときに。
この中篇作品には、「マジンガーZ」のキャラクターが登場しています。
ですが、これらのキャラクターの設定はゆどうふ設定です(下敷きにしているネタはありますが)。
そのため、彼らの過去などについてはゆどうふの捏造にすぎませんので、その点ご了承ください。


--------------------------------------------------
● ブロッケン伯爵
--------------------------------------------------
かつてはドイツの軍人であったが、戦場にて爆破に巻き込まれた際
頭部が首から千切れ飛ぶという死傷を受ける。
しかし、その彼をドクター・ヘルがサイボーグとして甦らせた。
彼の頭部は着脱可能であり、反重力装置が備え付けられているといわれる。
性格は冷酷・冷徹。そしてプライドが高い。
同僚になるあしゅら男爵とは超絶に仲が悪い。


↓ここからゆどうふ設定
彼は数十年前、ドイツの伯爵家に生まれた跡取り息子
「ミヒャエル・アルフレート・ブロッケン伯(Graf von Brocken)」…「ミヒャエル・ブロッケン」である。
彼には相思相愛の幼馴染であるラウラ・シュナイダーという娘がいたが、
結婚を目前にして彼女を事故で失ってしまい、しかもその最期にまみえることすらできなかった。
その出来事が彼をすさませ、神を呪う冷酷な青年に変えた。
たった一人の親友であるベルント・レーマンをも残酷な事件で失った彼にはもはや希望もなく、
「事故死」した後ドクター・ヘルに改造された時も、「神への復讐」を誓ってヘルに従うことを決めた…
「ミヒャエル」という、自分の「人間」としての「名前」を捨て去って。
この設定は、ショートストーリー"Zwei silberne Ringe, ewige Liebesbande""der engere Freund des "Graf Dracula""
下敷きにしたものである(こちらも読めばカンペキ)


私の小説の中では、彼は「生を忌避し、自分の『名前』を捨てた機人」です。
エルレーン・早乙女元気との関わりで、少年少女たちは何を得るのか。
そして、彼自身は何を得るのか…?
そういうカンジの話です(*^○^*)


メモ
http://getterteam.anime-japan.net/Entry/23/

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サイト更新しました(*˘◯˘*)

幻肢痛
http://yudouhu.net/mazin/mzss8.html
かなり昔に書いたゲスト原稿ですー
好きです、ブロッケン伯爵(n*´ω`*n)


もうすぐ3月…
3月から5月あたりまでは繁忙期なので、体調管理に気を付けていきたい
しかしながら、今ものすごく「小説を書きたい!」という気分が強いので、
この気持ちにノって、できるだけ書きたいです!
特に、ずっと放りっぱなしだった誘拐狂詩曲(Kidnap Rhapsody)は
できれば夏までに完成したいです(*˘◯˘*)
私的にも思い入れがあるので…



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今書いている小説/書きたい小説

仕事は相変わらず忙しいですが、それは小説を書かない言い訳にはなりませぬ…(*´◯`*)
もはやインターネットでも数少ないTV版ゲッターロボを扱うサイトとして、細々とやっていきたいです

○今書いている小説
誘拐狂詩曲(Kidnap Rhapsody)
パソコンが死ぬ→書きかけデータ昇天したため、続きを再構築中
あと3,4話で終わりなので、何とかして今年中に完結を目指す

百鬼百人衆角面鬼兄弟、やきう場に推参す。
今年中に
・横浜スタジアム編
・メットライフドーム編
・東京ドーム編
が書けたら一番望ましい。
なお、ゲッターチームも観戦に行かせたいと思っている。
私の今の考えでは…
ベンケイ:ゴリゴリの読売巨人軍派。よって東京ドーム編に出したい!
リョウ:九州出身なので、あえて言えば福岡ソフトバンクホークス?
ハヤト:正直、野球はあんまり好きじゃなさそう…

恐竜王女の御幸(ミユキ)
こつこつ進めていけたら…今年度中にミユキ(恐竜王女ゴーラ)が早乙女家に行くところまで書きたい
この小説では、是非「大枯文次親分」を出したいと思っています
ゲッターGの時点での彼を20代前半として…それよりも前、20歳前後くらいの時にミユキに会っていた、という話を書きたいのです。



○これから書きたい小説
タイトル未定・ゲッターチーム修学旅行編
TV版ゲッターロボの魅力は、ゲッターチームが「高校生らしい」ところです。
なので、高校生らしいイベントとして、修学旅行編を中編として書きたいです。
なお、基本的に、修学旅行は高校2年で行われるのが大半です。
そのため、無印ゲッターロボのリョウ・ハヤト・ムサシ+ミチルで行きたいと思っています(*^◯^*)

○誘拐狂詩曲(Kidnap Rhapsody)の続き…エルレーン/早乙女元気と、あしゅら男爵・ブロッケン伯爵の話
この話には続きも考えていて、この奇妙な二人との奇妙な交流を書きたいと思っています。
記憶を失い、自分の「名前」を探す怪人。
生を忌避し、自分の「名前」を捨てた機人。
ありえない、ゲッターチームとの話を書いてみたいのです。


サイトより先にこのブログにポーンして、それからサイトに…って感じで行きたいと思っています
掲示板も消しちゃったんでなかなか難しいとは思いますが、感想とかもらえたらすごくうれしいしやる気が出ます(*˘◯˘)<更新速度も上がるかもしれませぬwwwwwwww

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