忍者ブログ

それ行け!早乙女研究所所属ゲッターチーム(TV版)!

70年代ロボットアニメ・ゲッターロボを愛するフラウゆどうふの創作関連日記とかメモ帳みたいなもの。

百鬼百人衆角面鬼兄弟、やきう場に推参す。ZOZOマリンスタジアム編2

「試合がいよいよ始まるね、兄ちゃん!」
「ああ、楽しみだ!」
さて、何とか自席についた二角鬼と三角鬼。
先ほど売店で買ってきた弁当とジュースを手に、準備万端である。
(余談ではあるが、その際に長蛇の大行列に並んだことにとても二人は驚かされた。
どうやら、スタジアムでは食料を手に入れるのも一苦労らしい)
…と。
何やら、自分の頭に手をやって、髪をくしゃくしゃとやっている。
ピン、と来た次兄。それは自分の髪型が気になっているのではない。
「!…何だよ、まだ気になるのか?」
「う、うん」
不安げな顔でうなずく三角鬼。
彼が一体何を気にしているのか、というと…
「大丈夫だって、俺たちの人間擬態は完璧よ…」
ふん、と、鼻息とともに、末弟の心配を笑い飛ばす。
「擬態」…そう、彼らの正体は、その頭に尖った角を持つ亜人、「鬼」。
ヒトにはあるはずもないその角を見破られはしないかと、弟は心配しているのだ。
だが、百鬼帝国のエリート集団・百鬼百人衆たる彼らにとっては、角を完全に隠すことなど容易いこと…
そして、角さえ見えなければ、鬼と人間を見極める術など、ない。
しかしながら、弟はそれがわかっていながら不安を抑えきれないのか、ついつい頭に手をやってしまう。
「不安なら帽子でもかぶってるか?買いに行ってもいいぜ」
「ううん、いいや…」
次兄の誘いに、末弟は力なく首を振る。
それは何故か、というと…
ちらっ、と、兄が座っている側とは反対側の席を見やり、小声で。
「だって、もうここ…あんまり出たくない、っていうか」
「…普通に出にくいよな」
二角鬼も首肯する。
今回の彼らの席は三塁側内野席、そこまで悪い席ではない。
だが、それは…ずらっ、と並んだシートの列、そのちょうど真ん中あたりの二席だったのだ。
最初のうちはあまり客がいなかったが、すぐに隣、その隣…と、どんどん人間たちが席についてくる。
これでは、外に出ようと思う度、その人間たちの間を進んでいかねばならず、ちょっと気が向かない。
先に買い物をしていて正解だった、と、思う次兄。
二人は知らないことだが、こういうことがあるので、観客席はまず圧倒的に「列の端・通路側」から埋まっていくのだった。
何しろお手洗いにも行きやすいし、列真ん中のお客さんが外に出ようとするたび、身体を縮めたり立ったりひねったりしなくてもよいのである。
まあ、何はともあれ、座席には着いた。
そしてもうすぐ試合開始…らしい。
軽快な音楽に載せて、スタジアムDJの声がスピーカーを震わせる。
「ライト!カクナカ・カツヤァ!」
と、見下ろすグラウンドその一翼、一塁側のベンチから、白いピンストライプのユニフォームも鮮やかな選手が自分の守備位置へと走り出す!
さんざめく拍手の雨が、一斉にスタジアム中から降り注ぐ。
「!」
「なるほど、拍手で迎えるんだな」
二人も周りの人間どもにならい、拍手で選手たちの出陣を見送った。
拍手をする者だけではなく、両腕を誇らしげにぴん、と伸ばして、何かを掲げている者たちも多く見られた。
「兄ちゃん、名前の書いたタオルを拡げてる人がいっぱいいるね」
「ああやって応援するのか…俺も欲しいな」
それらはどうやら、選手たちの名前が書かれた…フェイスタオルのようなものらしい。
グラウンドを駆ける戦士たちに、ここにお前のファンがいる、と。
ここからお前を見守っている、と、掲げるタオルで叫ぶのだ。
後攻のホームチーム・このZOZOマリンスタジアムの主である千葉ロッテマリーンズのナインたちが、次々と緑鮮やかなフィールドに散っていく。
最後の一人・ピッチャーのワクイヒデアキがマウンドにつき、数回の投球練習を終えると…球審が腕を高く上げ、プレイボールが宣言される。
いよいよ、試合が始まるのだ!




20XX年5月28日(土) ZOZOマリンスタジアム
福岡ソフトバンクホークス vs. 千葉ロッテマリーンズ





「うーん、やっぱりすごいね、兄ちゃん!」
「そうだな!何か、映像で見るのと全然違うぞ!」
1回の表、ホークス側の攻撃は三者凡退。
しかしながら、実際に自分の目で見るプロの技術はすごかった…
あっという間にキャッチャーミットに吸い込まれていくボール。
それを打ち返す打者、しかしすかさず白球の落下点を計算し、それを軽々とキャッチして見せる内野手…
映像という小さく切り取られた世界では見られない臨場感、それがそこにあった。
興奮に顔をやや紅潮させながら、きゃっきゃと笑いあう鬼の兄弟。
…さあ。
そしてこれからが裏のイニング、このZOZOマリンスタジアムのホームチーム・千葉ロッテマリーンズの攻撃である…


―と。
その時。
歌が聞こえた。
鼓膜を、心を、魂を揺さぶる、歌が聞こえた―



彼らは思わず、その視線をライトスタンドに飛ばした。
「…!」
それは、荘厳な歌声だった。
右翼外野席のマリーンズファンたちが、歌っている。
その歌声は球場の空気を震わせ、広がり、ざわめくそのムードを別の色へと塗り替えていく。
「すごいね、兄ちゃん」
「ああ」
「すごいね…!」
「…!」
二人の口から思わず出たのは、ただただ感嘆の声。
人間の、夢にまで見たプロヤキュウの試合。
鬼の彼らは知らなかった世界が、だからこそ今目にするこの光景が、何よりも威風堂々として映る―





Ooh oh oh oh oh oh, Wow oh oh oh oh oh oh
Ooh oh oh oh oh oh, Wow oh oh oh oh oh oh



(な…何だ?!これは…)


ナインの為に 我らは歌う!
今日の勝利は マリーンズのもの!



(全員が立って歌いながら…タオルを振り回している?!)


包まれていた。その場を支配する、圧倒的な空気感に。
ユニフォームを買い、外野席ライトスタンドに戻ってきた一角鬼…
だが、先ほどまでと一変してしまった空間に、彼はただ、立ち尽くすしかない。

(何だこの儀式は…『巨人の星』には、こんなこと書いてなかったぞ!)
男も、女も、少年も、老人も。
白にピンストライプのユニフォームを着た彼らは、皆一様にタオルを手にし、それをぐるぐると回しながら…歌っている。
心臓の鼓動を早めるようなスネアドラムの連打が、彼らをより一層に駆り立てる。
「…」
リズムが、変わる。
それをあらかじめ知っていたかのように、ファンたちの歌声は静かにやみ、空を舞っていたタオルが静かに降りていく。
その統率の取れた、まるで訓練された軍隊のような動きに、一角鬼は目を見張るしかなかった。
「どうしたんです?」
「!」
―と。
完全に威圧され、ぼーっと通路に立ち尽くしていた一角鬼に、かけられる声。
見ると、白いユニフォーム姿、黒縁メガネの男が、こちらをやや困った表情で見返している。
「あ、もしかしてこの席ですか?すいません、荷物今よけますんで…」
「あ、ああ」
通路端の席にいたそのひょろっと細長い男は、軽く頭を下げながら、隣のシートに置いていたリュックを抱え上げた。
…確かに自分の持っているチケットを見ると、そのすぐ隣の席が自分の場所のようだ。
ぺこぺこしながら荷物を避ける男に目礼して、自席につく。
「…す、少し聞いてもいいか?」
「はい、何か?」
「先ほどの、皆がやっていたのは、一体…」
「!…お兄さん、もしかして、外野はじめて?」
一角鬼の問いかけに、メガネが一瞬きょとん、とした顔になる。
この席を選んできたものなら、まず当然しないような質問だったからだ。
「は、初めてというか…ヤキュウをこうやって見に来ること自体が」
「そうなんですか~!それじゃあ、いきなり外野だとびっくりしましたよね」
「?」
眉をひそめる鬼に…とはいっても、今は頭のその角を隠しているので、ただの人間の男にしか見えないのだが…メガネはそう言って軽く微笑んで。
遠くで楽器を演奏している軍団を指さしつつ、説明を加えてやる。
「野球で『外野席』っていったら、ほら…あそこにいる応援団の人たちと一緒に、
みんなで立って応援歌を歌ったり、選手の名前を呼んだりしてチームを励ます席なんですよ」
「そうなのか?!」
「…で、『内野席』は、どっちかっていうとゆっくり野球を見たい人向け」
「…」
どうやら、ヤキュウの座席は、何処でも同じというわけではないらしい。
試合をどう楽しみたいかという点で、ナイヤとガイヤを使い分けるもののようだ…
「あの、もしよかったらこれどうぞ。僕、だいたい覚えちゃったんで」
「!…これは?」
「選手の応援歌とチャンステーマの歌詞カードです」
メガネがリュックから何やら取り出してきたのは、小さく折りたたまれた紙だった。
使い込まれているために端がよれたり折れたりしている紙、それを拡げてみると…小さな小さな文字で書かれた歌詞が、左上から右下までびっちり、とその空白を埋めていた。
その数、ちらり、と流し見しただけでも、30は超えている。
(こ…これを暗記、だと?!)
メガネはこれをすでに暗記した、と言った。
おそらく、このライトスタンドにいる者たち、その相当数が同じなのだろう…
先ほどのあまりに統制された動き、そこにはファンたちの努力が隠れているのだ。
「今度はこっちが攻撃ですからね…一生懸命応援して、何とか点とってもらわないと!」
「…」
熱を込めて言うメガネに、まだ状況を飲み込み切れていない長兄、うまく言葉を返せず。
それを、初観戦の(しかもZOZOマリンの外野席!)緊張のためと思ったのか、メガネは笑って手を振りながら言う。
「大丈夫ですよ、とりあえず周りの真似してみてください」
「あ、ああ」
メガネに励まされ、小さくうなずく一角鬼。
そうだ、何を憶するものか。
せっかくきたんじゃないか、夢に見た…人間の、ヤキュウ場。
楽しまなければ、損じゃないか!
そうと決まれば思い切りやってやろうじゃないか、この場にふさわしい行動ってやつを!
隣のメガネも、何やら親切そうだし…


一角鬼がそう心を決めた、刹那。
空を貫いた。男の絶叫が。


MARINES!!
『FIGHTIN'!!』


「?!」
そして、それに続く…自分の周りにいる人間、全員の呼応!
鋭い雄叫びに、一角鬼の心臓が跳ね上がる。
思わず視線を隣のメガネに弾き飛ばせば…その先にも、彼は驚くべきものを見る。
先ほどまでへらへら笑っていた、何だか気の弱そうな、人のよさそうな男…
その表情が、瞬きの間に様変わりしていた。
応援団のシャウトに答え、鬼気迫る顔で、彼もまた叫んでいる…
その顔つきは険しく、最早戦場の突撃兵のごとく。


MARINES!!
『FIGHTIN'!!』



続く手拍子!
ライトスタンドに立つ全員が、グラウンドを見据え、声を合わせ吼える。


L・O・T・T・E! Wow-oh-oh-oh LOTTE!
L・O・T・T・E! Wow-oh-oh-oh LOTTE!



野獣の唸り声のごとき音の洪水に包まれ、人間に偽装した男は…押しつぶされていた。
一角鬼の頬を、つうっ、とつたっていくのは、冷や汗。
自分が経験してきた百鬼帝国軍での地獄の訓練…そこですら、ここまでの気迫を感じることはなかった。
これが人間たちなのか、あの無力で惰弱な?
いや、そんなものはとんでもない思い違いだったのだ、我ら鬼の傲慢な計算違いだ。
嗚呼、だって、見ろよ…この連中を。
その眼はどいつもこいつも、ぎらついている。
チームの勝利を呼び込むべく、ナインに気力を送るべく…!




(な、何だこいつら…一体…!)



拍手[0回]

PR

恐竜王女の御幸(ミユキ) 運命は彼女を選択した

恐竜王女の御幸(ミユキ) 運命は彼女を選択した

人間たちがこの世の春を謳歌している、地上。
その遥か下。下。下の下の下。
灼熱のマグマが広がる地層に、とてつもなく巨大な街…いや、国がある。
ヒトならぬ、だが二足で歩行し、高い知能を持ち、秩序と社会を持つイキモノが生きるその国…
ハ虫類から進化した彼ら、ハ虫人たちの国…恐竜帝国。
まだ人間がネズミの親戚であったころ、彼らこそが地上を我が物顔に歩き回っていた時代があった。
それこそ、高度に発達した文明を持ち、自然と調和し…
しかしながら、彼らの歴史は突然、闇一色に塗りつぶされる。
怨嗟と悪夢、憎悪と混沌が、彼らのきらめく未来を塗りつぶす。
それはかつて、ただの地を這う蜥蜴だった自分たちを、知性あるイキモノへと変えた…
「知恵」を与えたはずのモノ、だった。
目に見えぬ邪悪が、天空に荒れ狂い。
音も鳴らぬ悪辣が、人々を傷つけ殺し。
ハ虫人たちは苦悩し、苦悶し、苦難の果てに…地上の楽園を捨てた。
持てる限りの技術力を駆使し、地下の世界へと逃げ去った。
眩しいばかりの太陽の光は、もう見ることができない。
陽光に照らされる地上は、最早あの邪悪なる女神の世界―


ハ虫人たちは、この屈辱の歴史を、「神話」の形で子孫たちに伝えた。
自分たちを地獄に叩き落した女神を、その神話の中でこう呼んで―



「滅びの風(El-「風」raine-「滅び」)」



だが。
ハ虫人たちの願いは、変わらなかった。
地上への憧れは、代を経て、また代を経て、強くなっていく。
あの世界へ。
太陽のきらめく、あの世界へ。
そう、いつか、今度こそ、あの邪悪なる女神の呪いを克服して―!



「…それは誠、なのか」
恐竜帝国・帝王の間。
報告を受けた帝王ゴールの表情は、硬く硬く強張っていた。
大司祭から受けた言葉が、あまりに唐突すぎ、そしてあまりに…残酷すぎたため。
「…はい」
老いた大司祭は、帝王の威厳の前にひれ伏しながら。
それでも、己が受けた神々からの言葉を伝える。
その衝撃的な言葉に色めきだったのは、帝王に使える重臣たちだ。
帝国軍大将バット将軍、科学技術庁長官ガレリイ長官…
普段は反目しあい足を引っ張りあう、まさに犬猿の仲たるその二人も、同じことを老婆に怒鳴っていた。
そう、それほどまでに、彼女の言葉は許されざる、まさに不敬なる言葉。
「何と言うことを!お主、自分が言っていることがわかっておるのか?!」
「『賢(さか)き尖兵』として、あの…ゴーラ王女様を送るべき、だと?!」
恐竜帝国の命運をかけた地上侵攻作戦、その第一歩。
その状況を探るべく放たれるべき、恐れを知らぬ勇者。
魑魅魍魎の跋扈するだろう、人間どものあふれる地上に送るべき人物。
それが、何故…
「馬鹿げておる、危険すぎるわ!何故、王女様でなくてはならんのじゃ!」
「それを問われたとて、このおいぼれに何がわかろうか!」
しかし、大司祭とて、罵倒されたとしてもそう言い返すことしかできない。
彼女は帝王の命どおりに神々に祈り、そして得た答えを伝える。
たとえ、神々が下された答えが、どんなに非道なものであったとしても。
「…ただ、宣託が。そう告げたのじゃ…それを、ワシはそのままお伝えしておるのみ」


彼女が帝王ゴールから受けた命。
旧き神々に祈り、託宣を得よ、と。
永い眠りの後、再び訪れた活動期…
ハ虫人の長年の悲願たる地上制圧、それを正しく成し遂げるために、まずは地上の状況を知らねばならない。
そのために送り込むべき、勇敢なる「賢き尖兵」…
それに選ばれるべきは誰なりや?
旧き神々は誰をお示しになるのか?


「やりなおせ!そんなもの、何かの間違いに決まっておる!」
「言われずとも!」
バット将軍の指弾に、きっ、と老婆は睨み返し、怒鳴り返す。
「言われずとも!ワシは…何度も祈り、神々に答えを乞うた!」
何日も、何日も。
同じ問いを偉大なる神々に繰り返す、という愚行を犯してすら。
だが、彼女がそうせざるを得ない、それほどまでに神々の答えは残酷だった。
「だが、同じじゃ…幾たび繰り返そうと!神々の示す答えは、ゴーラ王女様を指す!」
なじられる老婆は、目を怒りに爛々と燃え上がらせながら、それでも言を変えない。
彼女自身が出した答えではない。
そう、これは、旧き神々が与えた答えなのだ、と。
「この答えが意に添わぬなら、今すぐワシを斬り殺し、別の者に占わせればよかろう。
この婆が偽りを申しておる、そう思うのなら!」
老婆は曲がった腰を、それでもしゃん、と伸ばそうとしながら、はっきりと言い放つ。
その顔には、自負。
この祭政一致の国家たる恐竜帝国において、長きにわたり神々の言葉を承る司祭として生きてきた、という自負。
―すなわち。
神託に間違いはない、という自信。
たとえ神々が命じる内容が、どんなに酷薄なものであろうとも―


「…」
「…」



「だ、だが…ゴーラ王女様は、帝王ゴール様の長女であらせられる…王位継承権を持つ方を、そんな役目になど」
バット将軍の喉から、かすれ声が反論を絞り出す。
何より帝王の子は、次代を担うべき存在。
帝王を継ぐべき存在が、もし地上で果ててしまったら…?
「…王位継承権で言えば…『第二位』、でいらっしゃる」
「!…貴様、」
が。
ガレリイ長官がぽつり、と漏らした一言に、バット将軍の表情が変わった。
しかし、帝王の御前…バットとて根っからの阿呆ではない、その次に続くセリフは飲み込んだ。


―すなわち、「王位継承権『第一位』ではないから、たとえ死んだとしても問題ないと思っているのか?」と。


恐竜帝国は古く長い歴史を持つ…
そう、それこそ、現在地上に大量に蠢いているサルどもの子孫のものよりも、遥かに長く。
それ故、王政を構築する規範やしきたりも、また多く、古く。
帝王ゴールには、御子が二人。
長女は、ゴーラ…側室のひとりの生んだ、娘。
長男は、ゴール三世…正室の生んだ、息子。
恐竜帝国の長きにわたるしきたりは、彼らのたどるだろう未来を、彼らがこの世に生まれ落ちた瞬間に塗り分けていた。
恐竜帝国の帝王となるべきは、まず、男子。
そして、第一夫人の子女たるべし、と。
そのルールは、暗にゴーラに告げている。
お前はあくまで「王位継承権第二位」、ゴール三世に何らかの事態が起こった場合の「スペア」なのだ、と。
だが…


…がんッ。


はっ、となった二人が見返る先には、玉座におわす帝王。
不愉快気に玉座のひじ掛けをこぶしで打った鈍い音が、強制的にガレリイたちの会話を終わらせた。
必然的に、帝王の間には静寂が満ちる。
不愉快な、居心地の悪い、音のしない、間。
いや、その場にいる誰もが、帝王の様子をびくびくと伺っている…


「…帝王ゴール様」
「…」
「我々は、一体…どうすれば」


その間を割ったのは、困惑に満ちたバット将軍の声。
帝王は、無言。
将軍も、それゆえに、それ以上の言を継げない。
再び、生ぬるい無言がその空間を満たす。



「…」



十数秒か。数十秒か。それとも、それは数百秒か。



「…わかった」



―ようやく、と。
その、居心地の悪い空白を断ち切ったのは、吐息交じりの声。
帝王ゴールは、いったん目を伏せ…
再び眼見開き、一息で答えを吐き出した。
己の迷いも全て、捨て去らんとしているかのように。


「偉大なる神々が、我々にそう告げたのならば」

「…それに従うことこそ、この恐竜帝国の栄光がため」


「えッ?!」
「ゴール様!」
ガレリイ長官、バット将軍の両者ともが、動揺もあらわに声を上げる。
帝王はおっしゃられたのだ。
愛娘を地上への間諜として送り出す、と。
邪なる人間どもの蔓延る、あの場所へ…
それは、種族の命運を賭けた大きな作戦であり、また重大な選択。
他の者ではなく、彼の方自身の血を分けた者を、と…
…嗚呼。
だが、見よ。
偉大なる帝王の、その表情を。
その眼には光なく、感情を押し殺すあまりに、その表情はもはや色すらない。
「ゴーラにはわしが伝える」
「…」
「ガレリイ、バット。『賢き尖兵』を地上に放つための準備にかかれ」
「は、はっ…」
だから、それ以上バットたちも何も言えはしない。
何が言えるだろう、覚悟をした帝王を前に、親を前に。



「神々が、ゴーラを選んだのならば…」



帝王ゴールの声音は、厳かで落ち着いていた。
だが、だからこそ―傍仕えの者たちは確信する。
それは、諦念。そして、信念。
恐竜帝国の彼岸・地上進出を達成するために、己が愛しい娘を犠牲にするという―!



「その加護が、必ず。我が娘をお守りくださるだろう」



拍手[0回]

百鬼百人衆角面鬼兄弟、やきう場に推参す。ZOZOマリンスタジアム編1

「はあ…」
「やっと見えてきた…アレ、だよな?」
「うん、兄ちゃん」
空の青、雲の白。
蒼天が凝結したような、さわやかなこの二色にぱっきりと塗り分けられた、巨大な建物。
角を隠し、人間に偽装した角面鬼兄弟…重い足を引きずって、ようやくスタジアムの姿が肉眼で見えるところまでやってきた。
そう、彼らはここまでの長旅ですっかり疲労してしまっていた。
東京の海岸外れ、人目につかない場所に潜水艇を止め、そこからまず東京駅まで電車で移動。
彼らの国である百鬼帝国にはない、その長くうねうねとした乗り物に興奮していたのも最初のうちだけ…
東京駅までも長かったが、次の乗り換えのために京葉線のホームまで移動する、その構内移動もまた長い。
さらに40分ほど電車に揺られ、やっと目的地の最寄り・海浜幕張駅に到着するも…
またそこからまだまだ歩かなくてはならない。
(マリーンズの公式サイトには海浜幕張駅から徒歩15分と書いてあるが、嘘だぞ絶対20分はかかるぞ)
…というわけで、さすがに彼らはへとへとになってしまったのだった。
それでも、ずっと行ってみたいと焦がれていた「ヤキュウジョウ」がもう目前なのだ…
長い歩道橋を歩いて交差点を渡れば、緑に囲まれたその向こう…三角鬼が指差す先に、夢の舞台が見える。
「あれが…ZOZOマリンスタジアム、だよ」
「…!」
兄弟の網膜に、その青と白が映り込む…
はあ、と、思わず二角鬼がため息を漏らしたのは、感嘆か、それとも安堵か。
「遠かったな…」
「すっごい海沿いじゃん、そこの海岸に潜水艇を止めれば」
「馬鹿野郎、人目に触れちまう」
わやわや言いながら階段を下りていく三馬鹿兄弟、だがその時。
「あっ…」
目を見開いた一角鬼、彼の目に映ったものは…
「…。」
「…。」
思わず、無言になってしまう三人。
それは、「ZOZOマリンスタジアム行」のLED掲示も鮮やかな白青のバスが、たくさんの乗客を乗せて軽やかにスタジアムへ向かっていく姿…
そう。
海浜幕張駅からは、おとな100円こども50円のスタジアム直通バスがあることを、彼らは全く知らなかったのである。





「わあー!」
「おお、こりゃすげえや!!」
それでも、スタジアムの正面に立った瞬間…今までの疲れを溶かしていくほどの興奮と喜びがわいてくる。
行きかう人間どもは、ヤキュウの戦闘服である「ユニフォーム」を着ているし、「ヤキュウボウ」をかぶっている者もいる。
若者だけかと思いきや、少年たちや親子連れ、年季の入ったユニフォーム姿の老人…
まさに老若男女問わず集っているのだ。
ここは、ZOZOマリンスタジアム。
この日本に12ある、ヤキュウで生計を立てるプロ集団…その一つ、「千葉ロッテマリーンズ」の本拠地だ。
とうとう、本物のヤキュウが見られるのだ…
百鬼帝国にはないスポーツ、「ヤキュウ」。
怨敵ゲッターチームが一員・車弁慶に近づくために、自分たちは一級資料「巨人の星」を読んでそれを学んできた。
けれど、もうそれだけじゃ物足りない。湧いてくる気持ちは、最早作戦のためだけのものじゃない。
自分たちでもやってみたい。
そして、見てみたい…プロのやるヤキュウを!
「…やっと、来れたな」
「ああ!」
うれしそうに言う一角鬼。力強くうなずく二角鬼。
「巨人の星」を読んで想像するだけだった舞台は、今ここにあるのだ。
「兄ちゃん!何か食べたい!」
―と。
三角鬼のすっとんきょうな声が、二人を現実に引き戻す。
彼はカラフルなテント群を示し、目をきらきらと輝かせている…
「おおー」
そのどれもこれもから、ほんわかといい匂いがしてくる。
看板には「牛タン」「ソーセージ」「焼きそば」などいう文字とともに、自分たちにはよくわからないがとにかくおいしそうな料理の写真がでかでかと載っている。
「何かいっぱいありすぎてわかんねー!」
「おお…すげえや、あっちのほうまでずらっとあるぜ」
しかも、それがずらり、と列を為す…
どの店にしようか、見て悩むだけでも時間がかかりそうだ…
「うーむ、めちゃくちゃ数があるな。悩んじまうぜ…」
長考に入ろうとした一角鬼、だがそこで末弟が気づいてしまう。
「…あっ」
「うめえわ、これ」
…見ると、次兄の二角鬼。
いつの間に買ってきたのか…ほくほくと湯気を立てる何かを喰っていた。
彼の手の中、「もちもちポテト」と書かれた包みの中に、にょろにょろと長い、揚げたらしきジャガイモ。
「お前…早すぎるだろ」
喰い意地の張った弟にあきれながら、一角鬼もそれをつまんで口に入れる。
ほくり、とほどける、なめらかな塩味。
「うまいうまい、揚げたてうまい」
「ずるいずるい兄ちゃんずるい俺も俺も」
「もっと寄越せ二角鬼」
男三人、あっというまに平らげてしまう。
そして、もちもちポテトで少しだけ食欲が満たされた兄弟は、とりあえずスタジアムの中に入ることにしたのだった。


「そういえば、チケット?はどんな席なの?」
弟に問われ、おもむろに一角鬼はチケットを取り出す。
自分たちではよくわからないため、人間社会に潜伏し情報を集めている百鬼帝国諜報部に依頼して手に入れたのだが…
「どれどれ、えーと…」
「…よくわからん」
「?」
細長い紙きれには、いろいろ細かい字で書いてあり、いまいち要領がつかめない。
球場案内図を見るが、それも見方がよくわからない。
三人雁首をそろえて、案内図の前で首をひねっていた、その時だった。
それを見かねたのか、つなぎを着た案内人らしき青年が近寄ってきた。
「お困りですか?」
「あっ…えっと、これはどこだろう?」
「ああ…お座席ですね?えーっと…」
青年は三人のチケットを見やり、図を示しながら説明してくれる。
…が、彼の答えは、三人の思いもよらないものだった。
「こちらの2枚は、三塁側の内野指定A。こちらはホーム外野応援席ですね」
「え?!」
「つまり、これ…俺たち全員同じ場所じゃない、ってことか?」
「はい」
何ということか。
諜報部の不手際で、まさかの兄弟バラバラ事件発生である。
「ええー?!そんなぁ…」
「ちっ、諜報部の野郎…適当しやがって」
「ど、どうしよう、兄貴?!」
混乱する二角鬼と三角鬼。
長兄は彼らを見やり、少しだけ困った顔をしたが…はっ、と短く息を吐いて、肩をすくめる。
「まあ、いいさ…それに、違う場所を選んだってのも、『偵察』としたらいい口実になるだろ」
「そりゃそうだけど…」
「何だ、お前ら?…心配するなよ、俺がこのガイヤオウエンセキ?ってところに行くぜ」
「!」
「お前らは二人でそのナイヤシテイAってところに行きな」
そう言いながら、一角鬼は外野席チケットを取り、残り二枚を二角鬼の胸に押し付けた。
「いいの?」
「構わねえよ」
「でも、一人じゃ危ないかも…」
「気にすんなって!大丈夫だぜ」
豪快な兄者はけらけらと気楽そうに笑ってみせる。
大体、ここはヤキュウ場…
観客として見に来た自分たちに、どんな脅威があるというのか。
「それじゃ…場所は違うけど、楽しもうぜ!」
「う、うん!」
「兄貴も、何かあったらすぐ連絡くれよな!」
そう言いながら、三人はそれぞれ教えられたゲートに足を向けた。


「ようこそ、マリンスタジアムへ!」
「は、はい」
チケットもぎりのお姉さんに笑顔を向けられ、ちょっと照れ笑いする三角鬼。
次兄と末弟は、無事ゲートを潜り抜け、マリンスタジアムの中に入った。
驚いたのは、「カバンを開けてください」と言われ、中身を見られたこと…
何だかよからぬものを持ってこないように、ということらしいが、そんなことは予想もしていなかった二人は、少しばかり面食らってしまった。
まあ、それでも、ともかく、無事中に入れたわけだ…
ざわざわと人が行きかう音が高い天井に反響していく、たくさんの人間たちがこのコンコースに…グラウンドと観客席を取り巻くスタジアムの大通路…あふれている。
「それにしても、すごい人だね…」
「ああ…うーん、この『通路番号』のところから、もっと中に入れるみたいだな」
先ほどの案内人に教えてもらった通路番号、それを探して二人はてくてくとコンコースを往く。
―と。
コンコースを飾る大きな装飾が、行く手に現れる。
「見て!これ、すごい!」
「おお…!」
三角鬼が、壁にあるそれに目を止めた。
同じくそれに目をやった二角鬼の表情が、笑顔に変わる…





―それは、大きなユニフォームを模したパネル。
そのあちこちに、マジックでメッセージが書かれている。
彼らが愛するチーム・マリーンズへの叱咤激励…
大きい文字、小さい文字。子どもが書いたようなかなくぎ文字も、さらさらと書かれた達筆も。
どれもこれもが、精一杯に叫んでいる。
選手たちに向かって、叫んでいる。

「…人間どもも、本当に『ヤキュウ』が好きなんだな」
「うん…」
見上げる二人の瞳に、感嘆の色。
自分たち鬼より、遥かに脆弱で愚昧な人間ども…
だが、そんな人間であれ、熱く燃える血潮は同じなのだろう。

祈りのモニュメントをしばし、見つめ。
「さあ、行こうぜ!」
二角鬼は自分の席に行こうと弟を促す。
「大丈夫かなあ、兄ちゃん…」
と。
足取りがやや重くなってしまう、末弟の三角鬼。
心やさしい彼は、人間だらけのこの場所でひとりぼっちになってしまった兄を案じているのだ。
「三角鬼、そんな心配するなよ!兄ちゃんなら大丈夫さ」
「うん…でも、せっかく初めてのヤキュウ観戦なんだからさ、三人一緒に見たかったなあ…」
「そだな…」
三人がずっと願ってきたヤキュウ観戦、初体験だからこそ三人で共にそれを分かち合いたかった…と、少しばかりしょんぼりする二人。
…が、そんなことを言っても、今更だ。
三人で一緒にヤキュウを見る、その機会はまたそのうち巡ってくるだろう。
だから、今日。
今を楽しまねば。
にっ、と笑顔一つ。二角鬼は弟に笑って見せて。
「…おい、まだ試合が始まるまで間があるから、何か喰おうぜ!」
「!…うん!」
そう言って、三角鬼を伴い、先に見える売店らしい場所に歩き始めた。



一方。
ホーム外野応援席へと向かった、一角鬼が目の当たりにしたのは…信じられないような光景だった。
白。
それは、白だった。
(く…何だ、これは?!)
見渡す外野席、男も、女も、皆一様に、白。
白の軍団が、その場を占拠していた。
(…ここらにいる連中…ほとんどユニフォームを着ている!)
そこにいるほとんどの者が、上半身に白いユニフォームをまとっているのだ。
その胸には"M"、それは誇らしき彼らのチームの徽章。
(何故だ?!まさか…これが何かのシキタリなのか?!)
あまりに一体感がありすぎて。
一面が白に染まるその様は、もう「制服(ユニフォーム)」というものを通り越して、まるで…一つの生物、巨大な群体のようにすら思える。
…つうっ、と、一角鬼の頬に、つたう汗。
威圧されていた。そのエリア全体が放つ空気に。
気おされてしまったその怯んだ心を奮い立たせなくては、その群体の中を割って自席へとたどり着くのも難しく感じるほどだ。
そう、そのためにはアレがいる…
あの群体の一部となるために、その威圧感の一部となるために。
…ユニフォーム。
通路を通りコンコースに出た一角鬼は、何やら応援グッズを売っているワゴンに向かう。
「…ユニフォームが欲しいんだが」
「はい!どちらのものに致しましょう?」
「う、ううっ…」
ボブカットの似合う、器量良しな女性店員が明るく問いかける。
しかし、一角鬼は困惑しきりだ…
何せ、彼女が示したユニフォーム…やたらとたくさんあるではないか!
「…と、とにかく白で!」
「はい、ホーム用ですね!」
目線を左右に数回往復させた後、それでもどれを選んでいいかなどわかりようもない。
ともかく、あの集団と同じ色であれば、浮きはしないだろう…
そう考えた彼が指差した白いユニフォームを、店員は「ホーム用」と呼んだ。
「ほーむ?」
「ここはマリーンズの本拠地ですので、選手はホーム用の白いユニ。
他の球場に行くときはビジター用の黒を着るんです」
「そうなのか…」
どうやら、この場所で戦う時と、他の場所で戦う時で服の色を変えるらしい。
なかなか面倒そうだ、と一角鬼は思ったりした。
「選手ネーム入りにしますか、それとも無地?」
「む、無地で」
どうやらあらかじめ選手の名前や背番号がつけられているものもあるらしいが、まだよくわからない。
とりあえずあの中にいられるだけの偽装でいいのだ、とばかりに、一角鬼は無地のユニフォームを指さす。
6500円のお買い上げである。
「タオルはいかがですか?この歌詞入りタオルとかおすすめなんですけど」
「そ、それもくれ」
店員に言われるままに、ホイホイと札を差し出す一角鬼。
軍資金として諜報部から受け取った日本の金…
諜報部員たちが非合法な手段で、しかも官憲に目をつけられぬよう秘密裏に準備していた金。
彼らがこの場面を見たら、きっと怒りのあまり鼻から血を吹くか、口から泡を吹くであろう。
世界征服のための作戦に使われるべき貴重な金が今、千葉ロッテマリーンズにやすやすと吸い込まれていく。
「後、このチケットホルダーもあると便利ですよ~!応援の時、ポケットからチケットが落ちたら大変ですからねー!」
「あっ、じゃあそれも!」
嗚呼。
さらに1300円、飲み込まれた。

拍手[0回]

百鬼百人衆角面鬼兄弟、やきう場に推参す。~Prologue~

闇が蠢く。
憎悪と怒気を糧として。


「ええっ?!」
「に、兄ちゃん…それ、マジで言ってんの?!」
「ああ」


闇が揺らぐ、弟達の驚愕で生まれた波で。
だが、長兄は不敵に笑い返す、それは自信と傲慢。
「さっき説明したみたいな理屈をつけ足せば、ぐちぐち言われることなくできる…と思う」
「そ、そうかなぁ…」
末弟の戸惑いの言葉には、ただ苦笑で返すだけ。
次兄も最早何も言わず、ふうっ、と息をつくだけ。


闇が蠢く。
憎悪と怒気を糧として。
そのカタマリは―真っ白な、何かをその手に握っていた。
赤い刺繍の縫い目も鮮やかなそれを、「人間」は何と呼ぶのだろう―


「俺は行くぜ、止めても無駄だ」
「兄ちゃんだけずるい!俺も行くッ!」
「二角鬼、お前は?」
「そりゃ、うまく行くなら…俺も行ってみたい!」
「じゃあ、決まり…だな」


だが、弟たちも、兄の突然の提案に驚いてはいるが、決して反対ではないようだ。
いや、むしろ、彼らだって共に行きたいのだ―その場所へ。
そして、そんなことはとっくに長兄も理解していた。
だからこそ、こんな突飛な計画をぶち上げたのだ。
次兄と末弟の熱のこもった返答に、長兄はにやり、として。
弄んでいた右手の中のソレを…真っ白なソレを、ぼーん、と軽く投げ上げ…
ぱしり、と乾いた音が鳴る。
受け止めた彼の右の手の中、硬球がかすかに皮の匂いを彼の手に残す。



「さっそく行こうぜ…ヒドラーの野郎のところへ!」



「はあぁ?!貴様ら、何をアホなことを言っておる!」
ヒドラー元帥の執務室。
鬼の軍団・百鬼帝国の猛者たちを束ねる王であるブライ大帝の信任も厚い、軍事部門の最高責任者…
その配下たる帝国の精鋭たち、百鬼百人衆のメンバー、角面鬼兄弟…
唐突に執務室に押し入っては唐突なことを抜かす彼らの直訴、その内容のあまりの珍妙さに思わず声を荒げてしまう元帥。
しかしながら、三人は涼しい顔でそれを聞いている。
「俺たちゃいたってまじめなつもりですがね、ヒドラー元帥」
「いや、だが…貴様ら、」
長兄の一角鬼は、何処か演技じみた口調でそう言って、わざとらしく両腕を広げてみせる。
だが、ヒドラーは軍団長ともいえる立場だ。
帝国に危険が及ぶかもしれない無用の行動なら、部下に実行させるわけにはいかない。
「人間どもの偵察、とはいっても…何故、…ヤキウ場?とやらのところへ行くんだ?」
元帥の疑問は、至極もっとも。
何故、それが国家を動かす大物が集まる政府機関・国会や、多くの情報が得られるマスコミではないのか。
何故、ヤキウ?とかいうモノをする場所なのか?
何故、わざわざ軍のエリートである百人衆がそこを偵察したがるのか?
「そんなことなら、早乙女研究所へでも」
「そこなんだぜヒドラー元帥!」
と。
元帥が抱いた当たり前の疑念を、一角鬼はこれまたわざとらしい大声でかきけした。
そして、きっ、と、元帥をまっすぐに見据え、主張する。
「俺たちは、あまりにもゲッターロボ…早乙女研究所のところに注力しすぎじゃないですかい?」
「む?」
ここで、えへん、と、軽く咳払い。
角面鬼兄弟の次兄・二角鬼が、兄の言葉に加えて、続ける。
「いいですか?我ら百鬼帝国の最終目標は、この世界全てを手に入れることでしょう」
「…」
「それを邪魔するのが早乙女研究所…ですが、」
世界征服という大望を現実のものとするべく、そこに至るまでの標識(マイルストーン)を、もっと細かく打ち込んでいくべきだ、と。
「もうちょっと、『足場』ってやつを固めていくためにも…日本の各都市の制圧は必要でしょう」
ゲッターロボ、早乙女研究所というわかりやすい標的のみならず、地固めをしていくべきだ、と。
「そのためには、諜報部隊だけに任すんじゃなく…実際に百鬼ロボに乗って戦う俺たち百鬼百人衆がもっと現地を見ておくべき!」
二角鬼は理論で攻め込んでいく。
奥底にある、彼らの真の目的のことなど、欠片すら見せるふし無く。
うぬう、と、元帥がうなる。
疑り深く執念深いヒドラーは、それでも納得しきれていないようだ。
まず、第一に。
「だ、だが…その『ヤキウ』?というのは何なんだ?何故そこを偵察に?」
そう、ヒドラーは…いや、彼だけではない、百鬼帝国のほとんどの者は「ヤキュウ」を知らないのだ。
「おや、ヒドラー元帥ほどの方でもご存じない?」
が、それこそ彼らが好機。
やっと来ましたかその質問が、とでも言いたげな顔で、三兄弟がずずい、と前に歩み出た。
「『ヤキュウ』とは…世界の多くの人間どもが狂乱するスポーツなんだぜ!」
「大人から子供まで、幅広い年齢層をカバーしてるんだ!」
「だから、いつもたくさんの人間どもが『ヤキュウ』を見るため、そこに集まるんです!」
ここが勝負どころ。
なだれ込むように、三兄弟が一気にまくし立てる。
果たせるかな、元帥の表情が少し…変わった。
それを見逃さず、三人はさらに押し込んでいく。
とにかく何でもそれっぽいことを言えばいいのだ、理屈とサロンパスは何処にでもつく。
「それに、大量の人が集まる場所…その全員を何らかの方法で洗脳すれば、戦力の増強にもなるだろう!」
「そうそう!そういう大規模な作戦をちゃんと立てるためには、やっぱ俺たち、自分自身で見に行かなきゃダメだと思うんです!」
「それこそ、何処に何があるか、どういうタイミングで実行するのがいいか…とか、細かいことは自分の目で見たものしか信じられないですし!」
「ぬう…」
一気呵成の主張が途切れ、しばしの間。
腕組みした元帥が少し考え込むような様子を見せ。
十数秒置いて、はあ、と、脱力したかのようなため息をつき。
…そして。
「…まあ、構わん。他の百人衆の邪魔をしたり、無駄に目立って早乙女研究所のアホどもに見つかったりはするなよ」
「!…はい!」
「やったあー!」
「ありがとうございまーす!」
そう、それこそが三兄弟がヒドラーからひねり出したかったひとことだ!
望み通りの許可を得た角面鬼兄弟、文字通り飛び上がって大喜びだ。
ハイタッチなどかまして浮かれ騒ぐそんな姿は、当たり前だが、ヒドラー元帥を急に不安にさせた。
「…何だその喜びようは。お前ら、まさか何か…」
「んじゃこれで失礼しまあーっすぅ!」
「あっ、適切な場所を選ばなきゃいけないから、何回か別の場所も見に行ったりしてもいいっすよねぇ!」
「後、現地での費用も経費で落ちますよね!よろしくおなっしゃああああーっす!」
「おい、角面鬼兄弟!」
ヒドラー元帥が怒鳴っても、もう遅い。
「構わん」というヒドラーの言質を取った以上は、もう(まさに)鬼に金棒だ。
矢継ぎ早に聞き捨てならない条件を言い放って、脱兎のごとく執務室を飛び出す三馬鹿兄弟。
彼らに向かって思わず伸ばした右手が、所在なくだらり、と垂れ下がる。
(まったく…あいつら、何を企んでいるのだ?!)
ちっ、と舌打ちが自動的に漏れたのは、元帥の疑惑と苛立ち。
しかしながら、そんなヒドラーでも、さすがに予想だにしていない…
まさか、彼らの目的が「作戦にかこつけて、とにかくヤキュウを見たい」…そんなすっとこどっこいなモノだろうとは。

拍手[1回]

恐竜王女の御幸(ミユキ)-Prologue-

恐竜王女の御幸(ミユキ)-Prologue-


老婆が祈る。旧き神々に祈る。
大祭壇の前、聖なる炎を絶やすことなく、祈りの言葉を高く低く謳いながら。
地にひれ伏す老婆の両の手の爪は鋭く尖り、皮膚は浅黒い緑。
なめらかな鱗に覆われたその姿は、ヒトではない―
ヒトではない。それは、ハ虫類。
蛇。蜥蜴。いや…「恐竜」。
その後ろ足は、だが、まるでヒトのごとく二足で立つことができ。
祭司たるその老婆は、それにふさわしい豪奢な衣をまとい。
これが野生と本能に踊らされる、ただの変温動物であるはずもなく。
言うなれば、それは…「ハ虫人」。
猿より進化したヒトどもの知りえぬ場所で、ハ虫類もまたそれに似た形態へと進化した。
社会を、文化を、科学を持ち、進化し続けていく生命体へと。
その生命体は、ヒト同様に畏怖を持つ。
己の運命をつかさどると思しき、己より強大なモノ―「神」に。
そう、老婆は祈っている。彼女らの神々に。
暗黒に包まれ何も見えぬ行く末、それを切り開くよすがを求めて。


老婆が祈る。旧き神々に祈る。
その祈りは、数時間も続けられただろうか。
汗がだらだらと額からこぼれ、祈るその声はもはやかすれきしんでいる。
しかし、老婆は祈り続ける。
彼女が求めているのは、自身の未来のような、そんな矮小なものではないからだ。
この国を…ハ虫人の国を、そこに生きる数多の民たちの命、その全ての命運を大きく左右する。
国家の存在と歴史を賭けた大きな決断に、勝利を飾るための信託を得んとしているのだ。
老婆が祈る。旧き神々に祈る。
立ち上がり、ひれ伏し、また頭を上げ、再び地を這い…



そして。
その瞬間が、唐突にやってくる。



「…?!」
祭壇に据えられた、巨大な水晶が、黒く澱んだ。
その靄が揺らめき、うごめき、何かの像を結ぶ…
「そ…そんな!」
老いて濁った司祭の目にも、それははっきりと突き刺さる。
老婆の表情に驚愕、それに替わっていく絶望。
何故なら、彼女は伝えなければならない。
彼女の王に伝えなければならない。
帝国の打つ起死回生の作戦、神々に選ばれたその者の名を…




「ゴーラ王女様…!」




老婆の唇からこぼれたその名は、嘆きと悲哀と混乱にまみれていた。



拍手[0回]

バレンタインだよ!ヒドラー元帥!(がんばれ!ヒドラー元帥シリーズ)

地球という星の上で、暦は刻一刻と刻まれていく。
かつて、海や山で国々が寸断された昔ならまだしも、世界が通信網で覆われた今現在では、時差はあれどもその暦はほぼ共通。
すなわち、1年は12か月。1週間は7つの曜日。
そして、今年の今日、2月14日は…日曜日である。
それを僥倖と噛みしめ、感謝しているのは…何も、彼だけではないだろうが。


その男は今、あまり彼には似つかわしくない場所にいた。
いや、「潜んでいた」という方が正確か…
彼は、今、「ネットカフェ」にいる。
そう、あの若者たちが怠惰な時間つぶしに使う、マンガだのネットが使えるコンピュータだのドリンクバーだのがある、ああいった場所である。
彼は今までそのような場所に足を踏み入れたことはなかった。
しかしながら、今日この日、2月14日が彼にそうさせたのだ。
そのうえ、長いコートにサングラス、しかも似合わぬ長髪ウィッグまでかぶり、姿かたちを全く変えようとしているのだから。
狭苦しい個室の中、ドリンクバーでとってきたホットコーヒーを傍らに置き、うすぼんやりと光るパソコンのディスプレイ画面に向かい…
そこでようやく、彼は鬱陶しいサングラスとコートを取り、一息つくことができた。


彼の名はヒドラー、百鬼帝国軍の元帥である。


慈悲深く思慮深いブライ大帝は、世界征服を志す国家のトップとして凡百どもが考えがちな「独自暦の導入」に賢明にもNOを出された。
外の世界とのギャップをうめるための新たな手間をかけるだけの価値がない、と考えられたのだ。
それゆえ、今日は世界的にも、百鬼帝国的にも、2月14日。
一般には「バレンタインデー」と呼ばれる日である。


チョコレートで愛や感謝を伝える日。
百鬼帝国では、ブライ大帝がかつて日本という国で過ごしていたことから、日本と同じく主に女性から男性にチョコレートを渡す日とされている。
しかしながら、それがすべて純粋な思いであればいいのだが…
残念ながらそうはならない。
一方的にチョコレートを与えるだけなのはおかしい、と思う者がいるのも当然で。
その1か月後、それを「ホワイトデー」と称する。
バレンタインにチョコをもらった者は、すべからくホワイトデーにそのチョコをもらった者に「おかえし」をせねばならない…
そんな鬼の仁義、鋼の不文律が出来たのは、いつごろだろうか。
これにより、「バレンタインに、ホワイトデーのお返し目当てでチョコレートを配る」不届き者がはびこる…それがこの百鬼帝国でも常態化してしまった。
ヒドラー元帥は、心の底から菓子業界の陰謀を疑っているほどだ。
だが、彼がどんなに不平不満を訴えても、いったんできた世間の流れは最早変えられない。


そう、彼は、標的とされる人物であった。
愛ではない。
感謝でもない。
ホワイトデーのお返しに高額なモノを出すことを要求される、ただのかっぱぎ対象だ。


今日が日曜日であることは、大いに彼の助けになる。
何故なら休日であるため出勤しなくともよいから、女性の部下とも会う危険性がない。
月曜に出してこようものなら、「何を馬鹿なことを!とっくに過ぎておるではないか!」と却下すればいいのだから。
しかし、だからと言って自宅でまったりもできないのがつらいところ。
数年前、同様にバレンタインが日曜日に当たった時、自宅を襲撃してきた連中が多数いたためである。
そのため、緊急避難先として元帥が選んだのが…このネットカフェである。
こんな場所、今まで来たこともない。家からもかなり離れた街中だ。
また、百鬼帝国軍元帥がこんなところに来るなどと想像する者もいないだろう。
念には念を入れ、金髪のウィッグまでつけて、いつもの七三スタイルを隠している…
彼の予測通り、ここまで知り合いには誰にも会わずに来れた。
今現在、昼の1時…
「ゆったり!8時間パック」に2時間延長もするつもりだ、これなら今日を逃げ切れる。
娯楽の殿堂とはいえ、コンピュータがあるのはありがたい。
重要な情報を含む仕事はできないにせよ、作っておかねばならない書類作成くらいは出来るだろう…
ヒドラー総統は珈琲を一すすりし、気合を入れ…仕事を開始しようとした。



その時だった。



ぞ、と、背中を這い回る、悪寒がした。
それは視線。
見られている。
見られている。
気づいたとたんに、全身が硬直し、それなのに大汗がどおっ、と噴き出してくる。
振り返るな。
振り返るな。
振り返るな。
見るな、見るな、見るな見るな見るな見るな。
ああ、だが…気のせいかもしれない。
気のせいかもしれないじゃないか、そうだろう?
自分勝手な希望が、ヒドラーを動かしてしまう。
どうしても確認したくなってしまう。


ゆっくりと、彼は振り返る…
本能が叫んでいる、振り返るな振り返るな見るな見るな見るな。


ああ、だが…
見て、しまった。


ネットカフェ特有の間接照明だけに頼った薄暗い空間
やけに静まり返った、空調の音だけが流れる空気
ブースの入り口、扉のその上
光っている、ぎらぎらと光っている
目、目、
それは一対の…鬼の目!


「ひ、ひぎゃあああーーーーーーーッッ!」


ネットカフェに響き渡る、絶叫。
驚きのあまり、文字通り飛び上がってしまったヒドラー…
そのはずみでずれ落ちた金髪ウィッグが、ばさり、と無様に床に落ちる。
「クックック…見つけた、見つけ出したぞえ、ヒドラー元帥!」
「は、白髪鬼?!」
真っ白な長い髪を逆立てる、その壮年の鬼女は…百鬼帝国百人衆が一人、白髪鬼!
情報収集をも得意とする彼女は、ヒドラーの隠密行動など見破るのに容易すぎるものだったのか…
らんらんと輝く目は血走っており、正直マジで怖い。
「ここで会ったが百年目…さあ、覚悟はいいかえ?!」
「ひ、ひいっ…」
気迫。
それに一瞬押されたが、ヒドラーはすぐさま反撃に転じようと立ち上がった、
ブースの中に入られては…終わりだ!
「さあ!受け取るがよい!ワシのバレンタインチョコォ!!」
「い、いらん!結構だ!結構です!」
ブースの扉を全力で押してくる白髪鬼に、これまた全力で対抗するヒドラー。
思わず最後のほうで敬語になってしまったのは、しかし惰弱のあらわれか。
必死で入ってこようとする白髪鬼を押しとどめていると、そこにやって来たのは…ネットカフェの若い店員。
しかし、彼も味方ではない、決して。
面倒くさそうな、だるそうな口調で(そしてやたら間延びした口調で)、無表情気味にこう言ってくるだけだ。
「あのぉ~お客さァん、あぁんまりうるさくすっと他の人にめぇわくなんすよねぇ~」
「う、うるさい!見ておらんと助けんか?!」
「はぁ~~~~~~~~?」
目の前の客が、こんなにも冷や汗をだらだら流しながら、侵入者に恐怖しているというのに…
助けを求めても、だるそうに、やったら語尾を伸ばして間の抜けた声を漏らすだけ…
この無礼者が!処刑だ!と怒鳴り返すだけの余裕は今のヒドラー元帥にはない、
驚愕に見開かれた彼の網膜に、爪鋭い指で小さな何かを懐からつまみ出す白髪鬼の姿!
ああそれはチルルチョコ、20ブライ(注:百鬼帝国のお金の単位は「ブライ」。だいたい1ブライ=1円)で買えて幼稚園の子どもでも安心の駄菓子…
義理チョコにもほどがあろう、と言うそれを、包装も剥かずに。
「わかっておろうなぁヒドラー元帥!ほわいとでーは…三千倍返しぞえ!!」
「な、何ィ?!い、一般的には三倍…」
「問答無用ッ!!」
暴利、あまりにも暴利。
反論しようとして口を開けた、だがヒドラー元帥はそうすべきではなかった。
その間隙を割り、凄まじい勢いで繰り出される白髪鬼の一突き。
喉奥まで割り込む、暴虐の一突き(申し訳程度に、その先端にチルルチョコ)。
衝撃と激しい痛み。
強制的に喉奥に広がる甘味に混じって、血の味。
ついでに前歯が折れる嫌な音と感触が混ざり合い、とうとう、
ヒドラー元帥はショックで意識を喪失した。

遠くで店員のむかつく声が、やけに間延びして響く…

「おきゃくさーん、あんまり騒がれっと退店してもらうッスよぉ~~~~…?」



嗚呼、
がんばれ!ヒドラー元帥!
来年は火曜日だ、有給取って日本まで逃げようぜ!



拍手[3回]

お年玉だよ!ヒドラー元帥!(がんばれ!ヒドラー元帥シリーズ)

いつもの廊下も、気が抜けない。
24時間張りつめている監視システムカメラ以外に自分を見ている者などいないはずだ…と思っても、身体の緊張は解けない。
廊下の角を曲がるたび、新たな扉をくぐるたび、その物陰に何者かが潜んでいないかと入念に確認しながら、ここまでやっと、たどりついた。
「…。」
たどりついた、そこは…
とうとう目的地に至り、ヒドラー元帥は思わずため息をついた。
「…ふぅ」
…自らの執務室前。

見慣れたそこに戻るのは、たったの二日ぶり。
百鬼帝国の元帥ともなれば、降りかかってくる仕事は数知れず…
新たな年を迎えるめでたい年始と言えども、彼に許された休日はたったの二日。
ついたち、ふつかと家でゆっくりできたのがもう懐かしい。
たいがいの者の初出勤日は、三が日明けの四日となるが…
どんどんとたまっていくだろう仕事を思えば、気も流行る。
というわけで、哀しいかな…自ら休日を切り上げ、ヒドラー元帥は勤務に赴いたのであった。

だが、元帥たる彼が、まるで人目を避けるかのようにしているのはどういうわけだろう?
それも、他の者がいるはずのない、この日に…
それには、理由があった。
ヒドラー元帥は、恐れているのだ。
今日のこの日を。
今日のこの日に、我が身に襲い掛かってくるやもしれない災難を…


しかしながら、それは杞憂だったのかもしれない。
安堵しながら、彼は己が執務室の扉を開く…
内心、仕事中毒の自分を嗤いながら。
ともかく、この二日の間にたまった仕事の半分は片づけたい、と思いながら。


が、
ドアノブががちゃり、と音を立てた、その瞬間―!


「?!」
びいいいいいいいいいいいいいいいいいいーーーー、と、突然元帥の鼓膜をつんざくような警戒音!
「な、なんだ?!何の音だ?!」
鳴り止まない強烈なブザーに泡を喰うヒドラー。
耐えきれず耳をふさいでしまうも、それでもやかましい音は終わってくれない。
想定外の事態にわたわたしている元帥…
と、そこに、ばたばた、と走ってくる新たな音を彼は聞いた。
「やったあ!うまくいったね、蒼牙鬼ちゃん!」
「ふふん、ほら見ろ地虫鬼、やっぱり私の予想どおりなのだ!」
「―?!」
足音の主たちを振り返るヒドラー元帥の顔に驚愕の色が一気に走っていく…
ああ…
今日、この日!
こいつらだけには見つかりたくなかったのに!!
「過去のデータからすると、ヒドラー元帥がこの3日にハツシュッキンするのは読めていたのだぞ」
「よかった、僕の作った装置、ちゃんと働いたね」
「き…貴様ら?!」
ドアに仕掛けられた警報装置(いつの間に?!)を外してブザーを止めながら笑う地虫鬼、自慢げに鼻を膨らませているのは蒼牙鬼…
どちらも幼少ながらその高い技術力を認められ百鬼百人衆となり、海底研究所でグラー博士とともに百鬼メカロボット開発にいそしんでいる少年少女だが…
「な、何をしに来た?!」
「やだなあ、ヒドラー元帥…年明けと言えば…いつものアレ、ですよね!」
と、地虫鬼が、年相応のわんぱくそうな顔で言う。
「いつものアレ」、に妙なアクセントをつけて。
内心、ヒドラー元帥は舌打ちした…
ああ、それが嫌だから、人目を避け、仕事に赴いたというのに!
頭を抱えたい気持ちのヒドラーの前で、蒼牙鬼と地虫鬼は二人並んで、両手を出して、
臆面もなく言い放ったのだ―



『お年玉、くーださい☆』



建国30年、百鬼帝国。
その中での暮らしは、その王たるブライ大帝がかつて日本と言う国で暮らしていたため、そこでの年中行事が多く存在する。
なので、年始は新たなる年を祝うため、として、偉大なる大帝は臣民に休日をくだされるのだが…
その休日に付与してくるのが、この年中行事。
「年少の者に、年長の者が金銭を授ける」という…子どもたちからすれば、「ハイパーかっぱぎボーナスタイム」以外の何物でもないラッキーイベント。
そう、「お年玉」である!
この目の前のガキどもは、元帥たる自分に金をせびりに来たのである!

「くーださい!くーださい!」
ぴょんぴょん飛び跳ねながら要求を続けるガキ二名に、嘆息するヒドラー元帥。
「何を言うか!き、貴様ら、年末に特別報奨金ももらったであろうが!
子どもの癖にあんな大金をもらっておきながら、まだ金が欲しいというか!」
「それとこれとはベツモンダイなんだぞ。もらえるものはもらうんだぞ」
「グラー博士だってくれました!ヒドラー元帥もくれると思って来ました!」
まっとうなヒドラーの説教に、えへんぷい、とばかりに胸をはってぬけぬけと言ってのける蒼牙鬼。
一方の地虫鬼は、卑怯なことに比較対象を持ち出してお年玉授与の正当性を貫こうとする。
元帥は沈痛な面持ちで、二人を見返していたが…
はっ、と短く息をつき、気合を入れ。
「論外だ!仕事にならん、出てい…」
「出ていけ!」と一喝して、追い払おうと…は、した。
が、その寸前。
「くーださい!くーださい!」
「お年玉、くーださい!」
「うわっ?!な、何をする、貴様らー?!」
ヒドラーに飛びつき、ぎゃあぎゃあ叫ぶ二人組。
服を引っ張りぶらさがり、耳元で全力で叫び倒す。
『くーださい!くーださい!くーださい!くーださい!』
「う…」

そして、執務室にヒドラーの悲痛な声がこだまする。

「うおおおおおおおお…!」


「わあい、こんなにいっぱい!ありがとうございます!」
「ふふん、満足なのだ。礼を言うのだ、ヒドラー元帥」
「…。」
いくばくかの金を握らせたら、二人の子悪魔…いや子鬼は、ころっと態度を変え、すみやかに姿を消した。
あまりに現金すぎるその態度をいさめる元気は、今のヒドラー元帥にはない。
ぐったりと椅子に背を持たれ、ようやく訪れた静寂に目を閉じる…
(く…余計な出費と時間の無駄が!)
しかしながら、それでも勤勉な元帥は、今日ここに来た目的を忘れてはいなかった。
(ともかく、仕事をこなさねば…決裁せねばならぬ書類もたまっておるな)
気を引き締め直し、書類トレーに手を伸ばした…その瞬間だった。


公正公平なるブライ大帝は、能力の高い者を優遇する。
それ故、百鬼帝国百鬼百人衆には、老若男女様々な者がいるのであり。
年若い者であっても、有能ならば、いくらでも出世への道が開ける…


そう、蒼牙鬼と地虫鬼だけではない…
ヒドラー元帥を狙っている者は!


だんっ、だんっ、だんっ!
「ひぐうッ?!」
突如、自分の周りに落ちてきた、三つの黒い影!
驚愕のあまりひきつれた声を上げてしまったヒドラー元帥を囲み、影は高らかに言う…
「恭賀新年、ヒドラー元帥!一角鬼、推参!」
「同じく、二角鬼!」
「同じく、三角鬼!」
「か…角面鬼兄弟?!」
百鬼百人衆の三馬鹿兄弟こと角面鬼兄弟に取り囲まれ逃げ場をふさがれた元帥、その脳裏によからぬ予感が走る。
何故、こ奴らは今、ここに?!
ああ、そして哀れなるかなヒドラー元帥…
その予感は、まさしく的中していた。
兄弟は、にやあっ、と、笑って、元帥に言う。
三人並んで、両手を出して―


『お年玉、くーださい☆』


「は、はあああぁ?!お、お前ら、自分をいくつだと思っとる?!」
「ウッス!ピッチピチの、18歳でぇっす!!」
「まだ高等学校出てませんから!」
「何かのアンケートで、『お年玉は高等学校卒業まで』って意見が一番多かったらしいッスよォ!」
「し、知らん!知らん!早く出て…」
「くーださい!くーださい!」
「ひィッ?!な、何をする、無礼者ォ!」
「くーださい!くーださい!」
「くーださい!くーださい!」
「や、やめんかああああああッ!」
「くーださい!くーださい!」
「くーださい!くーださい!」


執務室から、聞く者の胸をえぐるような、ヒドラー元帥の悲鳴…
だが、無情にも、今日のこの日、この場所で。
その声を聞く者は、全て元帥からお年玉をせびろうとする、狩人たちだけなのであった…



だから、
がんばれ!ヒドラー元帥!
18歳未満の百人衆は、まだまだいるぞ!



拍手[0回]

Copyright © それ行け!早乙女研究所所属ゲッターチーム(TV版)! : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]

管理人限定

カレンダー

09 2017/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

最新コメント

[12/29 カルロス]
[10/29 yudouhu]
[10/24 おに]

プロフィール

HN:
フラウゆどうふ(yudouhu)
性別:
非公開
自己紹介:
ゲッターロボとマジンガーが好きです。

バーコード

ブログ内検索

P R