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それ行け!早乙女研究所所属ゲッターチーム(TV版)!

70年代ロボットアニメ・ゲッターロボを愛するフラウゆどうふの創作関連日記とかメモ帳みたいなもの。

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誘拐狂詩曲(Kidnap Rhapsody)~ritardando~

夜の時間は、ひたひたと止まることなく進んでいく。
星が音も無くきらめく。彼の演奏の邪魔をせぬように。
森の中。少年と少女が見守る中。
機械仕掛けの伯爵は、ヴァイオリンを奏で続けている。
Grave, Fuga, Allegro...
―と。
「…すう」
「!」
旋律によって、穏やかな眠りの世界に導かれてしまったようだ。
かくん、とうつむいた元気の呼吸が、いつの間にか規則正しい寝息になっている。
「元気くん、寝ちゃった…?」
「…」
元気の頭をなぜるエルレーン。
ブロッケン伯爵も、ヴァイオリンを鳴らす手を止める。
…小学4年生には、そろそろ起き続けているのは辛い時間帯だ。
「もう夜も遅い。小僧を連れて戻れ、お嬢」
「ブロッケンさんは…?」
「我輩は、もう少しここにいる」
エルレーンに短く命じたなり、ふっと顔をそむける伯爵。
そうして、また演奏を再開せんと弓を掲げ―
ようとした手が、ぴたり、と止まる。
伯爵の黒い瞳が、今一度、少女を射る。
「…そうだ、お嬢」
「なあに?」
「さっき、我輩が、お前に話したことは…」
何のことか、とは、あえて言わず。
感情の表れない仮面が、抑揚のない声で言い放つ。
「…我輩と、お嬢の間だけの秘密だ。他の奴には言うなよ?」
「う、うん…」
だが、その口調は淡々としていても、眼光の鋭さがエルレーンに二の句を継がせない。
無言の脅迫に命じられるまま、少女は首肯するしかなかった。
…彼女のその様子を見届け、ブロッケンはまた彼らから視線を外す。
やがて、空気を震わせるヴァイオリンの静かな音色が、再び森の木々の間に響き始める。
バッハの無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番。Sarabande.
見えぬ音符が踊る。闇の中でひらめく。
「じゃあね…おやすみなさい、ブロッケンさん」
「…」
演奏に集中しているのか、それとも意図的な無視なのか。
エルレーンの言葉に、伯爵は目線すら投げず。
…仕方なく、少女は、彼の邪魔をせぬよう…眠る元気を起こさぬようそっと背負って、静かにその場を去った。


ざくっ、ざくっ。
飛行要塞グールに向かう足音が、草むらを踏む。
そのリズムに乗り、ゆらゆら、揺らめく少女の背中。
…やがて、少年も、その動きに目を覚まされる。
「う…ん」
「!…元気くん、起きちゃった?ごめんね」
もぞり、と動いた少年に、思わず足を止めるエルレーン。
元気は、気づかないうちに世界が変わったことに少し驚きつつも、まだ眠りから覚めきれず、ぼやんとしている。
「グールのお部屋に帰って…しゃわー浴びて寝ようね、元気くん?」
「あれぇ…ブロッケンさんは?」
「まだ、ばいおりん弾いてるって」
「ふーん…」
ぽやぽやと生返事を返していたものの、自分たちを包む夜の空気で少しずつ目がさえてきたようだ。
突如、はっ、となる元気、自分がエルレーンに背負われているのだと、ようやく気付く。
いい年をして背負われて運ばれてるなんて、何だか恥ずかしい…
まだまだ幼いのにそう思ってしまう自負もある、微妙なお年頃の小学4年生。
「ごめん!自分で歩くよ、僕」
元気は慌ててエルレーンの背から降り、さくさくと自分の足で歩きだす。
エルレーンも軽く笑み、彼の隣に立って歩きだす。
さくさくさく、ざくっざくっ。
夜の森に、刻むリズムの違う二つの足音が輪唱する。
「…ねえ、お姉ちゃん」
「なあに?」
足を止めないまま、前を見つめたまま、元気が呼びかける。
「今日のこと…お父さんやお母さん、リョウさん達には…言わないほうが、いいよね?」
「…」
「言わないほうが、いいんだよね…?」
―さくっ。
立ち止まる。元気が、エルレーンの顔を見上げる。
だから、エルレーンも、立ち止まる。
答える。
「…うん、そうだね」
少し哀しげに、その答えが空に散っていく。
「鉄仮面のグラウコスさんも、鉄十字のルーカスさんも、…僕らに、自分たちのこと、忘れろ、って言う」
一旦、間。


「けどさ…僕は、」
「うん」


「何だか…何だか、それは、嫌だな、って、思うんだ」


元気が発した言葉は、戸惑いに満ちあふれていた。
それでいながら、彼はそれを強く望んでいるようでもあった。
さわさわ、と、風が弄っていく木々の葉が、軽い驚きと非難の声をあげる。
エルレーンは、一度だけ瞬きして…早乙女元気を、見つめている。
「…おかしい、かな?」
「…」
自分でも、自分の発言がまともなのか、そうでないのか、まだ小さな元気にはわかりかねて。
少女に問うも、彼女もわずかに惑っていた。
そうして、またいくらかの間をおいて。
「…ううん」
彼女も、元気と同じだと告げる。
「私も…おかしくない、って、思う…よ」
すうっ、と、少女の目が、夜空に持っていかれる。
星空。無数に瞬く、幾千の星。
「忘れない。忘れられない。…忘れたく、ない」
「うん」
煌めく星の中に、彼女は誰の残像を見たのだろうか?
恐竜帝国によって造られた彼女の生は、短くとも、多くの哀しみに彩られてきた。
知らないほうがよかった。忘れたほうがいい。
けれども。
それが出来ないから、「人間」は…苦しい。
「だから…リョウたちには、ないしょ。そんで…」
ならば。
ならば、いっそのこと。
忘れずにいればいい。
その記憶を抱きしめたまま、その想いに刺し貫かれたまま、血を流せばいい。
きっと、元気も、いつか…
愛する者の間で苦悩し、こころが引き裂かれるような思いをするのかもしれない。
それは、かつての自分がそうだったように。
「私たちだけの、秘密にしよう…ね?」
「うん…!」
その時は、自分も。
自分も、彼と一緒に苦しみ、同じ重荷を分け合おう。
決意を押し隠した微笑を浮かべた少女が、少年にささやく。
少年はその真意を読み取れず、朗らかに笑う。
綺羅星がさざめく、静かな夜だった。


グールまで帰り着いた二人。
与えられた部屋にてくてくと歩いていくさなか…
「!…そうだ」
何やら、思い出したのか。
出し抜けに、目をぱちくりとさせるエルレーン。
「?どうしたの、お姉ちゃん?」
「ちょっと、やらなきゃいけないこと、思い出した…」
聞く元気に、にこり、と笑みを一つ投げ。
「元気くん、先にしゃわー浴びてて、ね」
「えっ、どこ行くの?」
「うん、えへへ…」
それだけ言って、何処かに行こうとする。
ぽかん、となる元気の問いにも、微笑みでごまかして。


そうして、彼女が向かった先は。


「あしゅら様ですか?ご自身の部屋にもう戻られましたよ」
「どこの部屋?」
「あちら、角を曲がって…一番端の扉です」
廊下ですれ違った鉄仮面兵に問うと、彼はすでに艦橋(ブリッジ)から自室に戻ったらしい。
彼にその部屋の場所を聞き、そちらに向かう。
長い通路を歩いて、歩いて、指示された角で曲がって…
さらに歩いて、歩いて、歩いて、一番端にある部屋の前。
扉のノブに手をかけると、施錠されていなかったドアはがちゃり、と容易く開いた。
開いた扉の先、エルレーンが見たものは…
「?!」
「?!…小娘?!何の用だ!」
…一瞬、エルレーンの目が点になる。
室内にいた人物は物音に振り返り、ノックもせずに入ってきた闖入者に非難と驚き半々の声をあげる。
だが、それは一体誰だ…?
そこにいたのは、女性。
足首までありそうな丈の長い、袖のない白い衣服を身にまとっている。
女にしてはかなりの長身、だが身体つきは引き締まり、頑健さすら見て取れる。
金色の髪を後頭部で一つに結った、この蒼い瞳の印象的な女…
美女、と呼んでも一向に差し支えはない、整った顔。
華やかさ、力強さ。その両者の共存。
嗚呼、だが、しかし…
今までこんな女性を、鉄仮面兵と鉄十字兵tばかりがうろつくグールでは見かけもしなかった。
一体、この飛行要塞の何処にいたというのか?!
そして何故、あしゅら男爵の部屋にいる?!
「えっ…えっ?!だあれ?!」
「…私だ」
混乱する少女を前に、軽く眉をひそめたその女。
事も無げに、短くそう答えた。
頭上に大きな「?」マークを浮かべたままのエルレーン、困惑気味に彼女を見返す。
だが、よく考えれば当たり前のことだ…
エルレーンは、その人に会うためにこの部屋に来たのだから。
だから、ここにいるその金色の美女、その正体は…
「…あしゅら、さん?」
「そうだ」
うなずくその女は、やはり…あしゅら男爵、らしい。
「魔力を練るには、この姿のほうがやりやすいのでな…何故か」
「あしゅらさん、変身とかできるんだ…すごいねえ!」
どうやら、彼は自らの見た目を変えることができるようだ。
そのあまりの変身ぶり、不可思議な能力に、エルレーンは目を見張るばかり。
「…そう言えば、あの女の人…森で私たちに声かけてきたあの人も」
「そうだ、私だ」
「へーえ…!」
思い返してみれば、早乙女研究所近くの森で拉致された時…自分と元気の前に現れたのも、女性だった。
姿かたちを変じることなど、男爵にとっては造作もないことらしい。
あしゅら男爵の異能力に感嘆の声をあげるエルレーン。
―と。
少女の表情が、ぱっ、といたずらっぽいものに変わる。
「じゃあね、じゃあね!…私、とかにも、変身できるの?!」
「ああ…やって見せようか?」
「うんッ!」
興味本位な少女の問いに、「お安い御用だ」とばかりに笑む、金色の女。
軽く手を空中にひらめかせ、瞳を閉じ、集中して、
「よかろう…ふッ!」
「!」
気合一閃!
瞬時、彼女の全身が金色の光で包まれる、その眩さにエルレーンは耐えきれず目を閉じる。
そして、彼女が再びまぶたを開いた時、眼前に立っていたのは―
「…!」
「ふふん…!どうだ?」
不敵に笑む、自分自身!
少しくせっ毛の髪、透明な瞳、しなやかでスレンダーな身体。
「わあぁ…すごい!すごいのぉ!」
「ふふん…」
素直で率直な称賛の言葉に、調子に乗りやすい怪人は至極ご満悦の様子だ。
きゃらきゃら喜ぶエルレーンと、腕を組んで満足そうに鼻を鳴らすエルレーン(もどき)。
と、さらに少女の要求はエスカレートする。
「…ねぇ、ねぇ!じゃあ…『ぼいんちゃん』な私とかにはなれないの?!」
「…はあ?」
…それも、よくわからない方向に。
どうやら、姿はこのまま、胸だけ大きくしてみろ、ということらしいが…??
当惑を隠さないエルレーン(もどき)に、なおもエルレーンは言い募る。
「『ぼいんちゃん』の!『ぼいんちゃん』の私!」
「…随分こだわるな…まあ、構わんが」
何度もその単語を連発してねだるものだから、もどきも首をひねってはいたが…
彼女のご希望通りの姿に変わって見せた。
金色の光がまたエルレーンの目を焼き、そしてその光が失せると…
「…!」
「こんなものか…?」
「わぁぁぁぁい!わぁぁぁぁい!『ぼいんちゃん』の私なのぉ!!」
たゆん、と、重たげに揺れる、二つの双丘。
黒いバトルスーツ、その胸には、本物の彼女にはない大きな盛り上がりが生まれ、その胸乳の間には深い谷間。
細身の身体に対して胸部だけがやたらと派手に目立っているという、アンバランスで肉感的な姿。
目の前に出現した自分の夢に、エルレーン、まさに狂喜乱舞。
飛び上がって喜ぶ様子に、もどきは困惑気味だ。
「…うれしそうだな」
「すごい、すごいの…こんなに、おっぱい、おっきく、て…」
「?…どうした、小娘?」
「…っく…ひいっく、うううッ…!」
「えっ、泣いてる?!」
が、まあ。
自分の理想を具現化した姿を目の当たりにしてしまえば、ひるがえって、そうではない自分の身が哀れに見えてきてしまうもので。
己の胸のぺたんこさを改めて自覚させられたのか、哀しくなってしまったらしいエルレーン…いつの間にやらぺそぺそとしゃくりあげている。
「うぐっ、えぐっ…ほ、ほんものは、いつまでもっ、ちっちゃいままなのに…いっ」
「こ、小娘…あまり気に病むな。気に病めば、大きくなるものもならんぞ」
「…うええっ、っく…!」
一方、何だかよくわからないことを言われ、何だかよくわからないうちに泣き出す少女を前に、困ってしまっているあしゅら。
やはりよくわからないうちに、しくしく泣くエルレーンを慰める…
「そ…それよりも、だ。…こんな夜中に、私に何の用だ?」
「あ…」
再び、長身の女性の姿に戻ったあしゅら。
やや低いアルトの声が、来室の意図を問う。
そこでやっとエルレーンは本来の目的を思い出したのか、慌ててごしごしと目をこすり。
改めて、あしゅら男爵に向き直り、告げた。
「えっと、ね…ありがとう、言いに、来たの」
「?」
男爵殿は、礼を言われる理由に見当がつかぬらしく、少し片眉を上げたのみ。
少女は、少し照れたような顔で、金色の女を見つめて、言う。



「私を、叱ってくれて、ありがとう…」



「あの時。あの攻撃を、受けた時」

「あしゅらさんは、言ってくれた…思い出せ、って」

「だから、思い出せた。
私の『母親』は、『おかあさん』は…」

「ルーガは、そんなこと言わないって、思い出せたの」



「だから…ありがとう、あしゅらさん」
「…ふっ」
エルレーンの感謝の言葉に、蒼い瞳が微笑んだ。
「当たり前だろう?…そうでない『母親』がいるとは思いたくない」
それは、断言に近かった。
いや、むしろ…それが必然であるかのように、彼…いや、彼女は言うのだ。
あしゅらはあの時言った、「我が子を黄泉の世界へ『連れて行こう』とするような『母親』がいてたまるか」と。
あしゅらはあの時言った、「お前の『母親』はそんなことを望みはしなかったはずだ」と。
その言葉がエルレーンを死の幻惑から引き戻し、彼女を救った。
今彼の口から出た言葉も、その時と同じ強さを持っていた。
「…あしゅらさんも、」
だから。
だから、少女は…ふと、思ったのだ。
「あしゅらさんも、もしかしたら…『おかあさん』なのかな?」
「?」
強固な信念をもってそれを語れるのは、彼自身も以前は「母親」だったからではないか?
そんなエルレーンの素朴な思い付きに、あしゅらは目を軽く見開く。
「えっと、なんか…そんな、気が、した」
「…ふん、そうかも…な」
くすくす、と、おかしそうに笑う。
「そうだな。そうだったのかも知れぬな?」
金色の絹糸が、彼女の笑いに合わせてきらきら揺れる。
蒼い瞳の美女は、軽くうなずきながら、顔をほころばせる。
「私が、『あしゅら男爵』として意識を取り戻した時も。
何故か…この姿には、自然に変身できた」
「へえ…」
「これが、きっと。私の本来の姿なのかもしれぬ」
軽く首を傾げれば、ポニーテールに結われた金色の髪が、しゃらん、と鳴る。
蒼い瞳をまたたかせ、あしゅらはふむ、とあごに手をやり。
「そうだな…」
また、嘆息。
少女の言葉を、噛み締める。
「私たちが、生きていたころ…私たちには、『子ども』がいた…そんな、気がする」
あいまいな言葉。だが、そこにこもるのは、確信。
自分は「母親」であったと(そして「父親」であったと)、愛する「子ども」をもっていたはずだ、と。
数十年、数百年、どれほど以前のことかすら定かではないし、わかりようがなくても。
それどころか、確信に至らせるまでの記憶の欠片、それすら見いだせていなくとも…
「まあ…貴様のような、行儀の悪いわがまま娘でなかったことを祈るがな?」
「む、むー!」
「はは、何にせよ…そのあたりもまったく思い出せぬのが口惜しいな!」
あしゅらの軽口にむくれる少女に、にっ、と笑みを投げてみせる。
やはり、彼はけろり、としている。異常なほどに。
記憶を失っていることに対しての苦悩も、狂乱も、鬱屈もなく。
元々深く考えない性質なのか、それともそれは、二つの魂が一つの肉体の中で混在し混線してしまったための障害なのか。
「だが…それでも、少しだが覚えていることもある」
ふと。
蒼い瞳が、にわかに真剣みを帯びる。
「魔法もそのうちのひとつだ」
「まほー?」
おうむ返しに繰り返す少女に、うなずいてみせる。
魔法。
この世界においては、幻想小説(ファンタジー)にしか存在しない、科学の範疇を超えた神秘の技。
エルレーンにとっても、それはただの想像やお話の出来事としか思えなかったが…
「そうだ…とはいえ、それに関する記憶も、あまり多くは思い出せていない…
当然、私の魔力もまだそれほどには高くはない。
軽い傷を治す、小さな炎を生む程度が今の限度だ」
「あ…」
そう言えば、百鬼帝国との戦闘中に出来た額の切り傷…
あしゅらが手をかざし何かをつぶやいた途端、それが跡形も無く癒えたことを、少女は思い出す。
…あれが、彼女の魔法、なのだ。
「しかし、そんな乏しい魔力でも…練り上げれば、護符のひとつくらいは作れる。
身を護るための宝珠…戦士を護るモノ、それに、例えば」
歌うように、何処か芝居じみた言い回しの台詞を口にしながら。
あしゅらは水晶のそばに置かれたモノを取り上げる。
そうして、ちらり、と、茶化すような、からかうような視線をエルレーンに投げる。
「例えば…『死にたがり』の小娘を護るモノ」
「し…え、ええっ?」
「…だから、お前にはちょうどいい」
あしゅらの発した強い言葉に目を白黒させるエルレーン。
彼女の困惑を意に解することもない金色の髪の女性は、何やらうそぶきながら…少女の眼前に、それをぶら下げて見せた。
「つい今しがた、完成したばかりだ」
「…?」
「今回の詫び…というわけではないが。お前と、小僧にこれをやろう」
そう言いながら、エルレーンに差し出してきたモノ。
革紐が通された、コインほどの大きさの…碧く煌めく石。
エルレーンと元気の分、ひとつずつ。
光を吸い込み、妖し気に違った色の光をはじき返している。
「わあ…きれいだねえ!これ、なあに?」
「これは、一種の守護珠だ。私の魔力を込めてある…
身に着けていれば、何らかの生命の危機が迫った時、一度だけ身代わりとなってくれるだろう。
…まあ、限度というものはあるが…たいていの攻撃なら、宝珠が受けとめ、代わりとなって砕け散る」
きらきらと輝いて揺らめくその碧い石に、少女のこころが吸い込まれる。
こんな小さな石にそんな力が込められているとは…
「へえー、ばりあみたいな感じ?おもしろーい!」
「以前から魔力を少しずつつぎ込んできた、作りかけのものだったが…やっと先ほど二つ完成した。
…やれやれ、久々に魔力を酷使したぞ!」
少女の反応に気をよくしたのか、明るく製作の苦労を語ってみせるあしゅら。
どうやら、先ほどからこれを作るために、金色の髪の女性の姿に為っていたようだ…


「小娘」
刹那。
その表情がにわかに変わり、真剣なものとなる。
見据える。
透明な瞳の少女を。
あの、鬼神のような荒ぶる戦いぶり。
恐竜帝国の「兵器」。
「母親」の幻影に惑わされ、黄泉路に片足を踏み入れようとした「子ども」。
―目の前の、「死にたがり」の少女。
「ブロッケンは言っていた…あれは、強力な催眠のようなものだと」
そうだ。
あの陰気な出来損ないの機械人形も、「何か」を見たのだろう。
「だが、催眠術で人は死なん。『人間』には、生きようとする本能というモノがあるのだからな」
しかし、奴は自力でそれから脱した。
独力でそれができず、そのままずぶずぶとあの怪光線の見せる幻惑に沈み込んでいったのは―この、小娘。
すなわち、小娘がそうなったのは…


「催眠術で死ねるのは…」

「…自ら、死のうとしている者だけだ」
「…」


暴かれたその理由を突き付けられ、エルレーンは何も言い返す言葉を持たなかった。
ただ、静かに唇を噛む。
あの時の愚かしい自分を…あるいは、純粋に己の望みに従った自分を…恥じているのか。
下を向き、黙りこくってしまう少女。
彼女を見やり、あしゅら男爵は…言葉を継ぐ。
「小娘。お前が何を思って死に急ぐのかは、私の知った事ではない。…だが、」
そこで、一旦、言葉を切り。
金色の女は、蒼い瞳で少女を見る。
「…お前は、まだ…生きているだろう?」
呼びかけるように。
説きつけるように。
「死にたがり」の少女を、蒼い瞳が貫き。
「まだ、時間があるじゃないか…!」
「…!」
その言葉が、エルレーンの鼓膜を揺さぶった刹那―
透明な瞳に、涙が浮かんだ。


それは、まったく、同じ言葉だった。
同じ言葉だったのだ。


あしゅら男爵は知るはずがない。知っているわけがない。
嗚呼、けれど…この人は、いや、この女(ひと)は、同じことを言った。
あの気高き女龍騎士、エルレーンにとってたった一人の「ハ虫人」の「トモダチ」と、同じことを言ったのだ。
脳裏によみがえる、あの女(ひと)の顔。
ゲッターチームとの戦いの中、葛藤に苦しみその挙句に自死を選んだ、あの時。
死の縁で見た幻影の中、現れたあの女(ひと)。
…あの女(ひと)と同じことを、言ったのだ。
「小娘、死ぬのは…哀しい事だぞ。
それに、何もそう急がずとも…時が来れば、相手のほうから勝手に迎えに来る」
あしゅら男爵は、軽く笑って、エルレーンに言う。
軽くたしなめるように。穏やかに慰めるように。
嗚呼、何故。
何故、この女(ひと)も…ルーガと同じことを言うのだろう。
「出来る限り、生きていろ」、と。


「だから、それまで…生きておればいいだろう?」
「あしゅら、さん…」
「せいぜい楽しんで生きればいい。それが一番だよ、小娘…」


何故、同じことを言うのだろう。
それとも、それは…「母親」たるものが、皆一様に「子ども」に対して望むことなのだろうか?
記憶のない、自らの「名前」すら失って思い出せない、この怪人も。
かつては自分の娘にそう語っていた「母親」だったから、なのだろうか―?


くっ、と、金髪の女性の唇が、笑みを形作る。
次の瞬間、金色の残像を空間に残し、両性融合の「バケモノ」がエルレーンの眼前にたちあらわれる。
「…だから、そのために、これを。
一度だけなら…この宝珠が、お前のいのちを危機から守るだろう」
男女のユニゾンが、そうささやきながら。
「死にたがり」の少女に、碧き護り珠を渡す。
「…うん」
エルレーンが浮かべるのは、微笑。
つぎはぎの怪人も、奇妙で奇怪な姿の両性具有(アンドロギュヌス)も、微笑。
少女の手の中で、鈍く輝く海のような碧。
光がきらきら、「生きろ」、「生きろ」と、揺らめいている…
その輝きを、そっと握りしめ。
エルレーンは、生の感触を確かめた―



「ありがとう、あしゅらさん」


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