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それ行け!早乙女研究所所属ゲッターチーム(TV版)!

70年代ロボットアニメ・ゲッターロボを愛するフラウゆどうふの創作関連日記とかメモ帳みたいなもの。

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百鬼百人衆角面鬼兄弟、やきう場に推参す。横浜スタジアム編1



yo ko haaaaaaaaa ma no soooooooooora taaaakaaaakuuuuuuuuuuuuuuuuuuu


Home-run kaaaaattobaaaseeee Tsuuuuuuuuuuu Tsuuuuuuuuuuu GooooooooooooooooooooooU!!!




「というわけで!また東京に潜伏している諜報員から、ヤキュウ場のチケットが届いたぞー!!」
「よっしゃあああああ!!」
「わーーーーーい!!」

それは、とてもとても喜ばしいニュース。
長兄の部屋に、ぱあっ、と、弟たちの明るい声が響いた。
人間たちは知る由もない、この地球は狙われている。
邪悪な鬼たちが蠢く闇の帝国・百鬼帝国…
だが、その強力な尖兵たるべきエリート集団・百鬼帝国百鬼百人衆が一員、角面鬼兄弟は…人間どものスポーツ・ヤキュウにうつつを抜かしているのだった!
元々は彼らの宿敵である早乙女研究所ゲッターチームの一人・車弁慶を陥れるために研究し始めたヤキュウだが…
その魅力に取りつかれ、とうとう「偵察」とかいう言い訳を作り出し、人間のヤキュウ場にも繰り出すようになったのだ。
記念すべき初観戦として、千葉ロッテマリーンズの本拠地・ZOZOマリンスタジアムに赴いたのはついこないだのこと。
その時の興奮も冷めやらぬうちに、彼らは次のヤキュウ観戦の手はずを整えていたのだった…
人間界に潜伏している諜報部の者に、試合のチケットを取らせていたのだ。
長兄の一角鬼が(人間界征服のための作戦立案もろくにせずに)根城としている自室に、おもむろに弟たちを呼び寄せて。
誇らしげに弟達に見せびらかすのは、三枚のチケット…
夢劇場への通行切符に、目をきらきらと輝かせる三馬鹿兄弟であった。
さて、今回の舞台は、というと…
「今度は何処なんだい、兄ちゃん」
「ええっと…カナガワ県ってとこにある、『ヨコハマスタジアム』ってとこらしいな」
次兄の二角鬼の問いかけに、チケットに書かれた地名で答える一角鬼。
横浜スタジアム…神奈川県は横浜の街中に位置する球場である。
「今度は行き方をちゃんと調べておかないとね」
末弟の三角鬼が漏らした言葉に、うんうん、とうなずく二人。
以前ZOZOマリンスタジアムを訪れた際は、便利な直通バスの存在を知らなかったため、無駄に長距離を歩いてしまった苦い経験からの言葉である。
そう、何においても、下調べというのは大切なのである。
「そうだな…後、座席もあらかじめ、ある程度の場所調べておくか?」
「ナイヤかガイヤくらいはなぁ、せめてなぁ…あっ?!」
…と、その時。
チケットをぼんやり見ていた一角鬼、その表情が何故か険しくなる。
「どしたの、兄ちゃん?」
「お、弟達よ…これを見ろ!」
「!」
いぶかる二角鬼と三角鬼に、一角鬼はやや震える手でチケットを示して見せた…
…すると、彼らも気づいた。
そう、その三枚のチケットは、全て…
「これ…」
「三枚とも、全然別の場所じゃねえか?!」
値段もばらばら、よく見れば印刷された場所?も違うらしく、用紙も違う。
何より問題なのは…そのチケットがそれぞれ指示している座席の場所、それが三つともまったく別々だったことだ!
またも発生した兄弟バラバラ事件に、つい苛立たしげな舌打ちを鳴らす一角鬼。
「諜報員の野郎、また適当な仕事しやがって!」
「俺たち三人で行くって言ってるのに、何でそれくらいの配慮ができねえんだか…!」
今度こそ三人揃ってヤキュウ観戦ができると思っていたのに、思わぬトラブルである。
諜報部によって繰り返された過ちに、三人ともがっかりの表情を隠せない。
ふんす、と鼻息荒く立ち上がり、一角鬼は壁際のコンソールに設置された長距離通信機を手にした。
「手配しなおさせてやる!まったく…」
どうやらバチあたりにも、チケットを手配した諜報員にクレームをつけようとしているようだ。
コードを入力し、受話器を耳に当て、しばし待ち…
「ああ、黒影鬼か!お前、このチケットは何なんだよ!」
相手が出たなり、苛立たしげに怒鳴りつける長兄。
まったく迷惑なクレーマーそのものである。
「俺たち三兄弟で行くって言ったろ!何で…」
なおもぷんぷん怒りながら彼は抗議する、が…
「ッ?!」
空中に一瞬、飛び跳ねる兄者。
突如、はじかれたように耳に当てた受話器を引き離す。
思いもよらぬことに、抗議に猛抗議で返された。
電話相手のすさまじい反撃が音波となって、一角鬼の鼓膜を貫いたのだ。
少し離れた場所にいる二角鬼と三角鬼にも、何やら受話器がわめきたてているのが聞こえるぐらいだ…
「?!…あ、ああ、はあ」
目を白黒させながらその攻撃に耐える長兄、先ほどまでの態度はどこへやら。
「そ、そうか…わ、わかった!わかったから…俺が悪かった!無茶を言った俺が悪かった!」
あまりの相手の勢いに、やがて反論する気力すら奪われたのか。
そのうち何とかその場を取り繕うかのように、詫びの言葉を連発しだす。
自ら地雷を踏みぬいてしまった彼、とにかく相手の機嫌を取ろうと必死になっている。
その合間にも、激高してしまった相手はぎゃんぎゃんと怒鳴り続けているようで、受話器から漏れ聞こえる女性の甲高い怒号はまったく止む様子を見せない…
「すまない!謝る!謝るから!…ありがとう!苦労かけてすまない!
じゃ、じゃあまたな!次もよろしく!」
しかしながら何とか会話の継ぎ目を狙い、無理矢理に会話を終わらせた一角鬼。
がちゃん、とばかりに通信機をコンソールにたたきつけ。
「はあ…」
がっくり、と両手をつき、疲労に満ちた深い深いため息を吐くのだった。
「ど、どうしたんだよ、兄ちゃん…」
「い…いや、何でも…ヨコハマスタジアムのホームチーム、『ヨコハマDeNA(ディー・エヌ・エー)ベイスターズ』?
…最近急に人気が出だして、チケットがまともに取れないんだと」
そう、それが諜報員が激怒した理由だった。
人間どもですら手に入れにくいチケットを何とか三枚も用意したというのに、それに何も考えずに文句を言われれば…そりゃあブチキレるのも当然であろう。
「へえ、人気球団なんだ!」
「それで、何とか手を使って集めたのがこのチケットで…文句を言うなら殺す、と言われた」
「…ヤキュウの試合も、なかなか人気なんだな」
改めてヤキュウの人気の高さに舌を巻く三人。
それを考えれば、たとえ席がばらばらであっても、むしろ三人とも同じ日の同じ試合を見に行けることだけで満足すべきなのかもしれない。
「仕方ない弟達よ、今回は三人バラバラになってしまうが…」
「まあ、せっかく取ってもらったんだしね!」
「それで、どうやってどこに行くか決めるんだ?何かこれ、値段も全然違うみたいだぜ?」
二角鬼のもっともな疑問。
当たり前だが、高い席ほどいい席…なのだろう。
それを考えれば、この三枚のチケットをどう配分するか…というのは、なかなかに大事な問題だ。
「ふん…こういう時は、これに決まっているだろう」
軽く鼻で笑い、立ち上がる。
おもむろにデスクに歩み寄った長兄は、紙に何やらペンでさらさらと書付け、二つに折り目を付け、そこで紙を破り…
「ほれ」
「…そだね」
その一片を弟たちに差し出した。
…そこには、三本の線。
そう。
こういう時は、恨みっこなし…
あみだくじで決めるに限る。
長い間の付き合いで起こった多くの兄弟げんかもこれで収めてきた、彼ら納得の決定法である。
二角鬼と三角鬼、三本の線の端にそれぞれ自分の名前を書き、
「よーし、書いたな?じゃあ残りのは俺、っと」
最後にくじを作った一角鬼が自分の名前を書いて、
「じゃあ、兄ちゃん…結果を!」
「よし…!」
あらかじめちぎっておいた、結果の書かれた紙片をそこにくっつける…!


そして、三者三様、彼らの道が決まったのであった。


「うーん、このポスター…超かっこいいじゃん」
「すっごく雰囲気あるよね!」
試合当日。
横浜はJR関内(かんない)駅のホームに降り立った三兄弟は、駅の壁を彩るポスター群に目を奪われた。
やはりスタジアムの最寄り駅だけあって、ベイスターズの選手のポスターで埋め尽くされている。
練習や試合の一瞬を切り取った写真に添えられた短くも鮮烈なコピーが、目に飛び込んでくる。
ベイスターズカラー…鮮やかな青に染められたホームに、たくさんのファンたちが降り立っていく。
さらに、彼らが改札を通り抜けると、そこにも大きなサプライズ。
「わー!見てくれよ兄ちゃん!上!」
「おお…!」
歓喜の声を上げる三角鬼が指差す先、関内駅の入り口には…



大きな大きな、ベイスターズキャップ!
「何か…こういうの、いいな!」
「ああ!」
駅全体でホームチームを盛り上げていく空気に、ご機嫌の三人。
「えーっと、地図によると…本当にここからすぐ近くらしいな」
「まわりの人間ども、みんな青白のユニフォームだな」
次はスタジアムへの移動であるが、それはどうやら悩む必要がなさそうだ。
駅を出て右手方向、徒歩三分もしない間に…それは行く手に現れる。
大きな広い車道、交差点の向こう。
「おっ…」
「…!」
青い縁取りにぱっきりと、"YOKOHAMA STADIUM"の文字がきらめき。
白い巨大な建造物が、来る者を迎え入れる。
多くの人でにぎわう公園の中に、それは悠然と立つ…


「あれが…ヨコハマスタジアム、か」


横浜スタジアム…通称「ハマスタ」。
横浜公園という公園の敷地内にあるという、一風変わった球場である。
花壇や木々に囲まれたそのスタジアムは、今はセントラルリーグ所属・横浜DeNAベイスターズの本拠地である。
存外に待ち時間の長い赤信号が青に変わると、その瞬間に待ちわびたファンたちが早足で横断歩道を渡っていく。
一角鬼たちもそれに倣い、公園に吸い込まれていく…
門をくぐると、そこはたくさんの人、たくさんの出店で活気に満ちあふれていた。
「マリンスタジアムみたいに、周りに屋台がたくさんあるね!」
「ちょうどいい、まだ試合あるまでに時間はある…メシ喰ってくか」
「いっぱいあるな…何にする?」
行きかう客たちも、皆手にうまそうな何かをもって、楽しげに笑いながらそれを食べている…
見渡す光景の中に、いくつもいくつも屋台や出店が映り、彼らを惑わせる。
「!…おい、あれなんてどうだ?」
すると、次兄が何かを見つけたようだ。
示す先には、「青星寮カレー」と
その前で、エプロンを付けたかわいい女の子が客引きをしている。
「…カレー?」
「何か美味そうじゃん」
興味を引かれた三馬鹿兄弟、ふらふらとそちらに近づいていく…
と、それに気づいた女の子がくるり、と向きなおり、極上の笑顔を向けてくる。
「おいしいですよー!ハマスタ名物・青星寮カレーいかがですかー?」
「ふん、それがここの名物なのか?」
「はい!何せ、選手の皆さんが食べてるのと同じカレーですからね!」
「えっ、プロヤキュウ選手と?!」
驚きの声を上げる兄弟たち。
なんと、ヤキュウ選手たちが食べているものと同じものを味わえるとは…!
「そうですー、若いベイスターズの選手が入っている寮の、食堂のレシピで作ったカレーなんですよ!」
「へえ…選手とおそろいなんて、おもしろいねえ」
「よし、それじゃ…3つくれ」
「それにベイスターズ特製ビールもありますよ!」
と、さらに追撃とばかりに、売り子娘が追加のおすすめアイテムを推してくる。
それもまたこのハマスタ名物・球団オリジナル醸造ビールだ。
「あっ、それは1つで」
すかさず指一本で答える長兄。
もちろん、それは彼一人だけの分である。
何故ならば…
「…兄ちゃんばっかりずるくない?それ」
「どうせ、ここ人間どもの街だから、バレないのに…」
背後でむくれる弟たち。
そう、百鬼帝国の成人年齢は…18歳。
この間誕生日を迎え18歳となった一角鬼のみが、酒を飲む資格があるのだった。
確かに二角鬼の言うとおり、ここは帝国からはるか遠く離れた人間たちの街・ヨコハマだ…
しかし、見つからないからと言って、してはいけないことをしていいものか。いやいけない(反語)。
「やかましい、こういうことはきちんとせねば」
自分はしっかり酒を楽しめる長兄は、しれっとそう言ってのけたのだった。
まあ、何はともあれ…幾ばくかの人間界の通貨と引き換えに、彼らはプラコップに注がれたベイスターズエールと、三人分のカレーを入れた袋を手に入れた。
「まあいいや、喰おうぜー」
「あそこに座って喰おうか」
ここハマスタは公園の中にあるだけあって、そこら中が植え込みや花壇でいっぱいである。
三兄弟は周りの人間どもの真似をして、屋台街の端…植え込みの石段に腰かけてそれを食することにした。
ほんのりあったかい白いケースをぱかりと開くと、スパイシーな香りが湯気とともに立ち上る。
スプーンを突っ込み、一気にかっ喰らう。
「おいしいー!」
「うん、辛すぎずいい感じ!」
ちょうどいいくらいの辛味に、舌鼓を打つ。
青空の下で食べる青星寮カレー(さらに一角鬼にはベイスターズエール)は、何だか青春の味がした。



「うーんさわやか!…しかし、なかなかの商売上手だな」
「ねー、なんかオシャレだしねー」
「こういうので人気をゲットするんだな」
球団特製グルメで客を呼び寄せる手腕に納得しながら、カレーをむさぼり喰う三兄弟。
ビールのプラコップに印字されたマーク、パッケージに貼られたラベルなんかもちょっとレトロチックで、何となく洒落た感じがこなれている。
人間たちもいろいろ考えるもんだ…
そんなことを思いつつ、鬼たちは昼食を終えた…
とはいっても、もう一時半前。
試合は二時から始まるのだから、そろそろ球場の中に入っておきたいものだ。
周りの人間たちも、ぞろぞろとゲートに向かっている。
「よし、それじゃ…腹もふくれたし、時間も時間だし」
「入場しますか!」
「じゃあな!お互い、楽しもうぜ!」
「うん!」
「試合後にまた会おうぜ!」
互いに手を振りながら、三兄弟は皆、まったく違う場所へと向かう…
三人の姿はあっという間に人の波に飲まれ、見えなくなってしまった。


こうして、それぞれ横浜スタジアムに散り散りになった角面鬼三兄弟…
まず、次兄・二角鬼。
彼が陣取る場所は…
「…ううっ!この階段、急すぎだろ…?!」
息をぜいはあ言わせながら、また一段、一段と、急勾配な階段を上っていく。
この横浜スタジアムは歴史ある球場らしく、少々作りが古いようだ。
なので、上方にある座席に移動する際は、非常に急な階段を上っていかなければならないので、どなた様も足元にはご注意である。
彼の座席は、一塁側内野指定席B。かなり高い場所にある席だ。
「ここか…?」
だから、そこまで登ってしまえば、そこから見える風景は…
「…!」
思わず息を呑んでしまうほどに、壮大だ。
グラウンドを睥睨するのみならず、ヨコハマの街の風景がそこから見える…
「まあ、グラウンドは遠いけど…見晴らしいいじゃん!」
納得した二角鬼が席に腰を下ろしビジョンを見下ろせば、そこではちょうど今日の試合のスターティング(先発)メンバーが紹介されている。
ホームチーム・ベイスターズの選手がひとり紹介される度、ビジョンの右隣のエリア…ライトスタンドから、ベイスターズ応援団の歌声。
応援旗がはためくその人の波の中、そのうちに…人間は知る由もないが、鬼が一人、混じっているはずだ。
「…一角鬼兄ちゃんはあの辺かな?」





ちなみに長兄・一角鬼、彼は…
「…かーっとばせー!クーラモットーーー!」
まさにライトスタンド中央、ホーム外野指定席にて、多くのベイスターズファンに囲まれ声を張り上げていた。
周りのファンたちの放つ熱気が、白と青の波となってうねっている…
ヤキュウ観戦、まさかの連続での外野席。
しかしながら、前回の経験を踏まえ、今度は前もってベイスターズの応援歌を覚えてきたのである。
百鬼百人衆・一角鬼、身体はごついし脳筋気味ではあるが、過去から学べる男なのである。
そう、だから、彼は迷わずついていける…
スターティングメンバー発表後行われる応援歌の流れにも!
9番打者・クラモトトシヒコへのコールの後、太鼓が三回鳴らされると―


tan-tan-tan!

tan-tan-tan!
"Oi!"
tan-tan-tan!
"Oi!"
tan-tan-tan-tan!

"A-le-x Ra-mi-re-z!!"

彼らが呼ぶのは、ベイスターズ指揮官の名。
そして―

tan-tan-tan!
"Oi!"
tan-tan-tan!
"Oi!"

tan-tan-tan-tan-tan!

突然の転調、切なさとポップさが入り混じったメロディーに!

"Oi!Oi!OiOiOi!"

勇気という名の 白いボールを胸に
夢を追いかける どんな時も
横浜Baystars! 全てを賭けて 走り出せ
横浜Baystars! 時代の風を背に受けて
信じているよ 熱い気持ちで!
掴むのさ…Your winning ball!!

「そーれ!」


そして最後は…三・三・七拍子!
最初から最後までばっちりと人間たちの応援についていくことができた一角鬼、会心の笑みである。
練習の甲斐があったというものである…
やり遂げた感でいっぱいの彼の視線が、ふと遠くに跳ねる…
―グラウンドを縁取るスタンド、選手たちが駆ける戦場から最も近い場所にあるエリアへ。
そこは、この横浜スタジアムの中でも、かなり単価が高い席なのだ…
(三角鬼はあそこか…すっげえ席だな!)


そう、末弟・三角鬼がいるのが…
「うわあ…」
一塁側(BAY SIDE)エキサイティング・シート。
スタンドからグラウンド側にぴょっこりとはみ出した、最も選手たちに近い位置にある座席である。
しかも、三角鬼の持つチケットが示す座席は…その中でも、一番前。
目の前に、胸くらいの高さの壁。
だが、それだけだ。
その向こう側には…緑の光景。
人工芝が鮮やかに艶めき、そして茶色の内野がその中にある。
選手たちが疾走るグラウンド、彼らと同じ視点の中に…今、自分も、いる。
「…」
思わず、胸に手を当ててみた。
どくどく、どくどく、と…心臓が、早鐘を打つのが、手のひらから感じる。
心が沸き立たずにはいられない。
壁が隔てていようとも、自分は、今…ヤキュウ選手たちと、同じ地面に立っているのだ。
それに、シート自体もとても立派なものだった。
大きくて背もたれもしっかりしていて、ドリンクホルダーもあって。
これは気持ちよく観戦が楽しめそうだ。
その上…
(グローブと…ヘルメット?)
シートの上に、ビニールに包まれたグラブ、そしてヘルメットが置かれている。
壁に貼られた注意書きによれば、どうやらこのシートではこれらを身に着けていなくてはならないようだ。
やはりグラウンドに近いだけあって、ボールが飛んできたりなどの危険性も高いのだろう。
「…へへ」
おもむろに、三角鬼はビニール袋を破り。
グラブをはめ、ヘルメットをかぶってみる。
すると、自然に笑みがこぼれてきた。
「ねえ」
何だか、とっても不思議だ。
ヤキュウ選手たちとまったく同じ目線の世界に立てる、そんな席があるなんて思わなかった。
遠くに目をやれば、ベンチが見える…
向かいには、相手チーム・ヨミウリジャイアンツ。
「…ねえ、ちょっと!」
そして、自分たちの左側…そこには、白地に細い青縞の入ったユニフォームを着た大柄で屈強な男たち。
バットを手に素振りをしたり、キャッチボールをしていたり、ベンチで作戦を練っていたり…
ヨコハマDeNAベイスターズの選手たち!
圧倒的に近い距離、彼らの話し声さえかすかに聞こえてくる…
一体何を話しているんだろう?もっと耳をすませば、詳しく聞けるかな…?
三角鬼はついつい身を乗り出し、選手たちのほうに耳を傾けた…
「ねーってば!!」
「?!」
が、途端!
ぐわん、とばかりに、強烈に鳴り響いた。
三角鬼の鼓膜は、いきなりの大声でびりびりと震える。
突然のことに文字通り飛び上がる、
ぱっ、と、彼が大声のほうに振り向くと、そこには…!

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ZOZOマリンスタジアム編報告書/あとがき

ZOZOマリンスタジアム 偵察報告書
報告者 百鬼百人衆 一角鬼

所在地・チバ県チバ市ミハマ区

プロヤキュウチーム・千葉ロッテマリーンズの本拠地。
最大収容人数は30,082人。
海浜公園の中、それも海岸沿いにあるため、海上からの侵攻は非常に容易と思われる。
(陸路であれば、首都トウキョウより電車約40分で到着するカイヒンマクハリ駅、そこより100エンの連絡往復バスを利用すべき)
会場の周りには多くの屋台が並び、百鬼兵士たちの指揮を大きく上げることだろう。
しかしながら、補給の面で言うなれば、このZOZOマリンの「モツニ」を超えるものはない。
この地の名物らしく、複数個所にてモツニの販売が行われている。
安価で栄養豊富であり、またこの地の強烈な潮風に冷えた兵士たちの心身を暖めてくれる。

この地に集うヤキュウファン…マリーンズのファン(サポーターと称される)は特に錬度が高いらしく、
恐るべきまでに一糸乱れぬ応援をチームのために行っている。
(それ故、チームもまたファンを「26人目のチームメンバー」として、背番号26をファンに与えている)
彼らのチームへの強い熱情・忠誠心は、強力な改造百鬼兵士となりうる可能性を秘めているように思われる。

だが、現地の情報によると、スタジアムの立地がやや不便な場所にあるためか、
この球場が30000人で満員になると言う機会はなかなか少ないらしい。
ここは功を焦らず、マリーンズの更なる飛躍・それに伴うマリーンズサポーター人数の更なる増強を待ち、
それから洗脳作戦などを行っていくほうが得策であるように思われる。

以上











(*^○^)<あとがき
やきう場探訪、第一弾…千葉ロッテマリーンズの本拠地・ZOZOマリンスタジアム編、如何でしたか?
2015年からやきうを見始めた私ですが、ZOZOマリンは今まで3回行きました(2017年現在)
ZOZOマリンはやっぱりちょっと遠いので、この近くのホテルに泊まるのが一番いいですわwwwwwwwwww
高級ホテルが多いのですが、そこは必要経費ということで…
今回の話はマリン初観戦時の2016年がベースになっているので、マリーンズ応援の最初が「試合開始のテーマ」ではじまっています
今は「星に願いを」かな(*˘◯˘*)?
風がビュンビュン強くて、潮風を感じられる球場…
場外グルメ、屋台のお食事がいろいろあって美味いっす(*^○^*)!!
マリーンズが勝つと、ファンと選手が一緒にやる"WE ARE"という儀式があるのですが、それはまたオールスター編が書けたら是非入れたいです!

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百鬼百人衆角面鬼兄弟、やきう場に推参す。ZOZOマリンスタジアム編3

試合は進む、どんどん進む。
3回の表、ビジターチーム・ソフトバンクホークスが2アウト2塁より、キャプテン・ウチカワの長打で得点を先取。
そのまま試合は、4回まで到達した。
…と、その時。
明るいスタジアムDJの声が、軽快な音楽が、スピーカーから降ってきた。
「さあ、今日も始まりますパッションオブザファン!
素敵なパッションを見せてくれた人一名に、素敵なプレゼントが当たりますよぉ~!」
どうやら、観客を飽きさせないため、イベントのようなものがあるらしい…
一体どんなイベントなのかと、二人が周りを見回していると…
「!」
「あっ、かわいい…!」




場内をさまよう視界、二角鬼の視界が…ぴたり、と静止する。
視力4.0を誇る鬼の瞳が、まっすぐに射たのは何か。
それは…チームのいるベンチ、その真上の屋根部分。
そこで一心不乱に踊る美女たちの姿!
キュートな衣装、ひるがえるスカート、そして輝く笑顔…
マリーンズのチアリーダー・M☆Splashだ!
はじけるスマイル、周りの客たちを魅了する。
健康的な肢体をしなやかに弾ませながら、彼女たちは踊る。
そして…彼女たちだけではない、鳴り渡る音楽に乗って一緒に踊っているのは…
「え、え、何?お客さん?」
スタジアムの様々な場面を、ビジョンは映す。
元気よく、ニコニコと笑いながら、踊りまくっているユニフォーム姿のファン達…
時には仮装をした者すら映り、観客たちを喜ばせる。
何だか、それは見ているだけでこちらも笑顔になってしまうほど、楽しげで。
「面白そう!やろうよ、兄ちゃん!」
「…。」
「兄ちゃんったら!」
「…。」
三角鬼、一生懸命呼びかけるも…次兄は全く動かない。
遠く見えるチアリーダーの姿に、まさに釘付けである。
双眼鏡を持ってくればよかった、次から絶対持ってこよう…
今、二角鬼は、そう心に誓っていた。


一方、その頃。
「はぁ、はぁ…」
「大丈夫です?」
「だ、大丈夫だ…」
心配する黒縁メガネに片手をあげ、平気だとアピールして見せる…ものの。
イニングの合間、一角鬼はすでに肩で息をしていた。
これほどまでとは思わなかった…
野球の応援が、ここまで体力を消耗するものだとは。
何しろ、自軍の攻撃中は、外野席は立ちっぱなし。
そして、応援団なる者たちの指示に合わせ、選手を後押しするための声出しを行う。
特にこのマリーンズはファンの応援が熱いことで知られているらしく…
全員、声をからさんばかりの大声で、選手の名を呼び、彼らのための歌を歌うのだ。
その音量は、最早ただの声ではない…
すでに、一種の「圧」として、グラウンドに向けて吹きすさぶ。
時折、守備側のホークス外野手がこちらを顧みるのも、そのすさまじい「圧」を背で感じているからだろう。
隣の黒縁メガネの動きや声出しを見よう見まねでまねし、もらった歌詞カードを使いながら歌い…と、何とかかんとかついていけている(と、思う)が…
百鬼帝国百人衆、エリート集団の一員たる一角鬼、体力には自信があった。
しかしながら、歌い続け、叫び続け、飛び跳ね続け…
さすがの彼も、マリーンズファン(「サポーター」と呼ぶらしい)の応援の熱さに、すっかり度肝を抜かれてしまった。
と、披露した一角鬼を見かねたのか、黒縁メガネが言った。
「よかったらちょっと休憩しません?もつ煮おごりますから」
「…モツニ?」
その聞きなれない言葉を、オウム返しする一角鬼。
「マリンの外野に来たなら、やっぱこれですよ!」
「…もつ、に??」
「そうそう!」
二たび、その言葉を口内で転がしてみる。
メガネに連れられ、コンコースに再び出てきた一角鬼。
彼に勧められ、「モツニ」なる謎の食物を試すこととした。
手の上でほかほか、とあたたかさを放っている容器いっぱいに盛られたその具沢山のスープは、潮風に吹かれてふわふわと湯気を飛ばす。
どうやらそれは日本の調味料・ミソで煮られているようだ。




(ふむ…肉の切れ端?弾力があるな、臓物を煮たものか?)
恐る恐るそれをハシでつまみ、口に入れてみる…
刹那。
「…!」
ぱっ、と、一角鬼の表情が変わり。
次の瞬間、ZOZOマリンの外野コンコースに、シンプルな驚きと喜びの声が響くのだった。




「うまーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!」




試合は進む、どんどん進む。
あっという間に中盤を通り越し、もう7回の表。
ホークスのファンが球団の歌?らしきものを歌ってから、攻撃が始まった。
通路をせわしなく行きかうファンたち、そして…大荷物を運びながら声を上げる売り子たち。
たいていはビールの樽を背負って飲んだくれたちに酒を供給する者たちだが、そうではないものを売り歩く者もいるらしく…
そのうちの一人が上げた声が、兄弟の耳に飛び込んだ
「ジェット風船いかぁーっすかあーっ!ジェット風船どーですかぁーーー!」
その言葉、こんな平和な球場で聞くはずもない単語。
野球の試合に陶酔しきっていた二角鬼と三角鬼の表情が、鞭うたれたように強張った。
「?!」
「ジェット?!」
ジェット…
強力なエンジンで空を割く航空機。
敵地爆撃にも使用される空戦機が、まさか、このようなエンターテイメントの場所で販売されているとは…?!
「こ、こんな場所でジェット…?!」
「人間どもの科学力…どうやら、俺たちはなめすぎていたようだな、三角鬼」
ごくり、と、息を呑む。
愚鈍と侮っていた人間ども…しかし、それもまた、鬼である自分たちの侮りであったか。
が…
もちろん、野球場でそんなものが売られるはずもない。
緊迫した二人、その二つ隣の青年が手を挙げ、そのジェットの販売者に声をかけた。
「くださーい」
「はい、200円です!」
そして、何やら小銭らしきものを乗せた手を伸ばし、売り子が渡す何かと交換している。
「…?!」
…手のひら大の大きさ、ビニール袋に包まれた、四角い何か。
これが、「ジェット」…?
あんなに小さいものが?一体これは…?
頭の中が「?」だらけになった鬼の兄弟、目をぱちくりさせている。
「あ、あの!」
「…?」
「…これって、何ですか?」
思い切った三角鬼、その青年に呼びかけた。
いきなり問いかけられたその若者は、一瞬困った顔をしたものの、すぐに笑顔になって答えてくれる。
「ああ、これは7回裏の攻撃前、みんなでふくらませて飛ばすんですよ!」
そう言いながら、手に持ったビニール袋の包装を開け、中から何やら取り出して見せてくれた…
ひょろり、と細長い、ゴム風船。
どうやら、野球ではこの風船をジェットと称するらしい…
空を飛ばすからジェットらしい、なるほど。
納得した次兄、自分たちもそれに倣うこととした。
青年と同様に、ジェットの販売者を呼び寄せる。
「ひとつくれ」
「ありがとうございまーす!200円です!」
銀色の硬貨二枚と交換だ。
「ウイングバルーン」と書かれた台紙につけられたジェット風船は、4本もあった。
「ほれ、半分」
「ありがと」
2本ずつ分けたその風船は、先端に吹き込み口?らしきものがある。
「7回裏?の時に、飛ばす…んだっけ」
「なんだ、それじゃもうそろそろか?」
そう、気が付けば、7回の表もツーアウト。
はっ、となって周りを見回してみれば…結構な人数のマリーンズファンが、ジェット風船に息を入れ始めている。
しかし、大きく細長く膨らまされた風船、それらを皆手でホールドしているようだ。
吹き出し口を手で押さえたり、根元を空気が漏れないようにつまんだり…
二つ隣の若者も、すでに膨らませた風船をしっかりと握り、準備万端の模様。
やはり、7回裏になったら、「みんな」で飛ばすことになっているらしい。
勝手に飛ばすフライングはご法度だ。
「じゃあ、俺たちもやるか!」
すうっ、と大きく息を吸い込み…一気に風船に息を吹き込む二角鬼、体力自慢だけあって肺活量は抜群だ。
あっという間に二本ともパーフェクト、セッティング終了だ。
「…うぅ」
一方、兄同様一気に膨らまそうとした三角鬼、思わず酸欠でくらついてしまう。
「大丈夫か?俺がやってやろうか?」
「う、ううん、大丈夫」
それでも何とか2本とも膨らませ、たぶんあるだろう合図を待つ…
スリーアウト・チェンジ。
マリーンズの選手たちが、一斉に自軍ベンチに帰っていく。
ビジョンに映る、"Lucky 7"の文字。
やがて…スピーカーから、さわやかなメロディーが流れだす。
チアリーダー、M☆Splashのメンバーたちも、手に手に金色のポンポンを持って、グラウンドに駆けていく。
彼女たちを追いかけて、大きなカモメのぬいぐるみも…名を「マーくん」と言うのだが、鬼の兄弟たちはそれを知る由もなく…ぽてぽてとした足取りで現れる。
その歌は、もちろん彼らにとって初めて聞く曲だった。
けれど、周りの観客がそうするように、一緒に膨らませたジェット風船を、曲に合わせて大きく天に突き上げる。
観客席で、真っ白いジェット風船が、一緒に踊っている。
チームの勝利を、マリーンズの勝利を、共に願って…
「…!」
そうだ、たったの2点差だ。
追いつける。追いつくんだ!





We Love Love Love, Love Marines
We Love Love Love, Love Marines
王者はおごらず 勝ち進む
千葉ロッテマリーンズ!


うたう。人はうたう。思いを込めてうたう。
それは祈り。それは願い。それは聖歌。


人々の手から、ジェット風船が飛んでいく。
放たれた風船は、甲高い音を鳴らし、空に舞う。
兄弟たちも慌てて風船を手放した。
「わあ…!」
スタジアムの上空に、真っ白なジェットが飛び乱れる。
無数の軌跡を描きながら…
思わず出た感嘆の声。
一瞬現れた幻想的な光景に、鬼たちは目を奪われた―





Tan-tan-ta-ta-tan!
「おーおーおーおー、ろって!」
Tan-tan-ta-ta-tan!
「おーおーおーおー、ろって!」
Tan-tan-ta-ta-tan!
「おーおーおーおーおーおー!」
La-Lalala-lalala-lalala-!
La-La-la-lalala-la-la-la-lalalala-!

「ちーば、ろって!」
La-Lalala-lalala-lalala-!
La-La-la-lalala-la-la-la-lalalala-!

「ちーば、ろって!」

Wow-ow-ow!!
「うぉーおーおー!」
Wow-ow-ow-ow-ow-ow-ow-ow--wowow!

Wow-ow-ow!!
「うぉーおーおー!」
Wow-ow-ow-ow-ow-ow-ow-ow--wowow!
「ちーば、ろって!」

あっという間に駆け巡る、相手投手の速球を鋭く打ち返したスズキダイチ選手がダイヤモンドを駆け巡る。
彼の足が確実に二塁を…一般的に点が入るチャンスが増大する「得点圏」(スコアリングポジション)と呼ばれる…捕えこむ。
外野席に鳴り響くヒットテーマ1、マリーンズ反撃の狼煙。
もうメロディーも覚えた一角鬼も、黒縁メガネとともに声を上げる。
マリンスタジアム・ウグイス嬢タニホ女史の美声で、代打がコールされる。
ビジョンに映し出される選手の表示と絡まりあって、スタンドのファンを熱狂させる―


『…に代わりまして、…フクウラーー!背番号・9ーー!』


どうやら、彼はマリーンズにとって最高峰の選手の一人らしい。
福浦タオルを、彼を応援するパネルを掲げだす者たちも現れる―
―と。
応援団に、動きが現れる。
「行くぞー!」
彼らの呼びかけに、外野席のサポーターたちが一斉に身構える。
奏でるメロディーが…変わった。
「!」
それは、はじめて聞くメロディーだった。
スネアドラムが刻む。細かい手拍子を、全員が打つ。
そして…彼らは、飛ぶ。
その全身で、スタンド全てを揺るがす!





Lala-lala-la-la-la-la----!
Lala-lala-la-la-la-la----!
『さあ男ならば その魂ぶつけろ!』



サポーターが歌うその歌詞は、だが、フクウラ選手の歌とは違うようだ…?!
必死に歌詞カードのフクウラ選手の欄に何度も目を走らせるものの、そのラインは何処にもない…
「これは…ど、何処だ?フクウラ選手のところに、この歌詞ないぞ?」
「チャンステーマですよ」
「ちゃんすてーま??」
困惑する一角鬼に、黒縁メガネは説明する。
「こっちに点が入りそうな絶好のチャンスの時、選手を励ます歌です!これこれ」
「そうか…ここでフクウラ選手が打てば、こっちに点が入る『たいむりー』という奴だな!」
「そうです!」
つまりは、今は大チャンスの時。
サポーターたちも全力でそれを後押しするのだ。
声は、ただの音ではない。
それは、力そのものだ。
マリーンズナインを立ち上がらせる、彼らの心を鋼に変える力そのものだ…!
幾たびも繰り返されるメロディー。
やがて、一角鬼の脳内にもそれが焼き付く。


うたう。人はうたう。思いを込めてうたう。
それは祈り。それは願い。それは聖歌。


強大な音が、振動が、うねりとなって、一挙にグラウンドになだれ込む。
敵チームナインの心を圧迫し、マリーンズナインの心を震わせる。
サポーターの声はもはやガイヤだけではなく、ナイヤからも鳴り渡る。
叫ぶ―
叫ぶ―
全身で叫ぶ―
無数の人間たちが、一様に。
その中に紛れ込んだ異物、鬼の兄弟も、叫んでいた。
一角鬼も、二角鬼も、三角鬼も。
全力で、全開で、フクウラ選手の為に―!


『さあ男ならば その魂ぶつけろ!』


ピッチャーが、その圧力を打ち払うように、一回頭を強く振り。
構えて、ボールを握り直し、振りかぶる。
放つ。白き硬球が弾丸となって、キャッチャーミット目掛けて流星となる。



そして―
きぃいんっ、という甲高い音とともに、フクウラ選手のバットが流星を左翼深くまで跳ね返していった―




「残念でしたね…でも、よかったらまた外野に来てくださいよ」
「おう!あんたのおかげで、すげえ楽しかったぜ!」
試合終了後。
半日を共に過ごした戦友、眼鏡のに、一角鬼は笑った。
あの後マリーンズはフクウラ選手のタイムリーで1点を返したものの、惜しい当たりが連発。
残念ながら、そのまま1点差で逃げ切られてしまった…
しかしながら、初のプロ野球観戦…
大いに楽しめた試合だった。
しかも初観戦にして外野席というなかなかにチャレンジングな場所であったが…マリーンズを熱く応援するという経験ができたのも、ひとえにこの気のいい黒縁メガネのおかげである。
「よかった!次こそ勝ちましょうね!」
「ああ!もうヒットテーマも覚えたから、完璧だぜ!」
お互いに健闘を称えあい、連絡先を交換する。
念のため、人間界偵察に出る前に取っておいた情報収集用偽装電子メールアドレスが役に立った…
「スギウラ」と名乗った黒縁メガネと笑顔で握手、必ずこのZOZOマリンスタジアムでまた会おうと約束して、一角鬼は外野席を後にした。
人間界に侵略したら、ぜひこの男を自分の配下に取り立てよう…
そんなことを、ぼんやり考えながら。


試合が終了し、ばらばらとファンが帰途につく。
「おーい、二角鬼、三角鬼ー!」
スタジアムを出た一角鬼、テレパシーで(鬼なので人間どもが持ちえないような特殊能力を持っているのも当たり前である)分かれて観戦していた弟たちに呼びかける。
「兄ちゃん、どうだった…ああっ!」
果たせるかな、テレパシーを察知したすぐに弟たちは現れた。
彼らも野球の試合を満喫したらしく、満面の笑顔…
だが、一角鬼の姿を見た途端、それが驚きと怒りに変わる。
「何それ、兄ちゃんだけずるいぞ!」
「仕方ないだろう、『外野席』だとこれがあったほうがよさそうだったからな」
いつの間にか自分だけユニフォームやタオルを買っていた一角鬼、弟たちに責められる。
偽装のために必要だった、と言い訳するも、その表情がゆるゆるなので、説得力がない。
案の定、自分たちも欲しいとぶーたれる二角鬼と三角鬼。
「俺も欲しい!」
「僕もー!」
「ようし!じゃあ、潜水艇に戻る前に…買っていくか!」
駄々をこねる弟たちに、一角鬼はにかっ、と笑って見せ。
親指で、遠くに輝くマリーンズストアを指して見せる…
まだまだ興奮冷めやらぬファンが今日の土産を求めて賑わうショップに、彼らは足を向ける。
彼らもまた、その群れに加わる。
今日という、あまりに素晴らしい初観戦試合の記念を探して…



潮風が吹く。無数に立ち並ぶ、のぼりが風にあおらればさばさとはためく。
そののぼりの中、バットを持ち雄々しく立つフクウラ選手が、彼ら三兄弟を静かに見送っていた―


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百鬼百人衆角面鬼兄弟、やきう場に推参す。ZOZOマリンスタジアム編2

「試合がいよいよ始まるね、兄ちゃん!」
「ああ、楽しみだ!」
さて、何とか自席についた二角鬼と三角鬼。
先ほど売店で買ってきた弁当とジュースを手に、準備万端である。
(余談ではあるが、その際に長蛇の大行列に並んだことにとても二人は驚かされた。
どうやら、スタジアムでは食料を手に入れるのも一苦労らしい)
…と。
何やら、自分の頭に手をやって、髪をくしゃくしゃとやっている。
ピン、と来た次兄。それは自分の髪型が気になっているのではない。
「!…何だよ、まだ気になるのか?」
「う、うん」
不安げな顔でうなずく三角鬼。
彼が一体何を気にしているのか、というと…
「大丈夫だって、俺たちの人間擬態は完璧よ…」
ふん、と、鼻息とともに、末弟の心配を笑い飛ばす。
「擬態」…そう、彼らの正体は、その頭に尖った角を持つ亜人、「鬼」。
ヒトにはあるはずもないその角を見破られはしないかと、弟は心配しているのだ。
だが、百鬼帝国のエリート集団・百鬼百人衆たる彼らにとっては、角を完全に隠すことなど容易いこと…
そして、角さえ見えなければ、鬼と人間を見極める術など、ない。
しかしながら、弟はそれがわかっていながら不安を抑えきれないのか、ついつい頭に手をやってしまう。
「不安なら帽子でもかぶってるか?買いに行ってもいいぜ」
「ううん、いいや…」
次兄の誘いに、末弟は力なく首を振る。
それは何故か、というと…
ちらっ、と、兄が座っている側とは反対側の席を見やり、小声で。
「だって、もうここ…あんまり出たくない、っていうか」
「…普通に出にくいよな」
二角鬼も首肯する。
今回の彼らの席は三塁側内野席、そこまで悪い席ではない。
だが、それは…ずらっ、と並んだシートの列、そのちょうど真ん中あたりの二席だったのだ。
最初のうちはあまり客がいなかったが、すぐに隣、その隣…と、どんどん人間たちが席についてくる。
これでは、外に出ようと思う度、その人間たちの間を進んでいかねばならず、ちょっと気が向かない。
先に買い物をしていて正解だった、と、思う次兄。
二人は知らないことだが、こういうことがあるので、観客席はまず圧倒的に「列の端・通路側」から埋まっていくのだった。
何しろお手洗いにも行きやすいし、列真ん中のお客さんが外に出ようとするたび、身体を縮めたり立ったりひねったりしなくてもよいのである。
まあ、何はともあれ、座席には着いた。
そしてもうすぐ試合開始…らしい。
軽快な音楽に載せて、スタジアムDJの声がスピーカーを震わせる。
「ライト!カクナカ・カツヤァ!」
と、見下ろすグラウンドその一翼、一塁側のベンチから、白いピンストライプのユニフォームも鮮やかな選手が自分の守備位置へと走り出す!
さんざめく拍手の雨が、一斉にスタジアム中から降り注ぐ。
「!」
「なるほど、拍手で迎えるんだな」
二人も周りの人間どもにならい、拍手で選手たちの出陣を見送った。
拍手をする者だけではなく、両腕を誇らしげにぴん、と伸ばして、何かを掲げている者たちも多く見られた。
「兄ちゃん、名前の書いたタオルを拡げてる人がいっぱいいるね」
「ああやって応援するのか…俺も欲しいな」
それらはどうやら、選手たちの名前が書かれた…フェイスタオルのようなものらしい。
グラウンドを駆ける戦士たちに、ここにお前のファンがいる、と。
ここからお前を見守っている、と、掲げるタオルで叫ぶのだ。
後攻のホームチーム・このZOZOマリンスタジアムの主である千葉ロッテマリーンズのナインたちが、次々と緑鮮やかなフィールドに散っていく。
最後の一人・ピッチャーのワクイヒデアキがマウンドにつき、数回の投球練習を終えると…球審が腕を高く上げ、プレイボールが宣言される。
いよいよ、試合が始まるのだ!




20XX年5月28日(土) ZOZOマリンスタジアム
福岡ソフトバンクホークス vs. 千葉ロッテマリーンズ





「うーん、やっぱりすごいね、兄ちゃん!」
「そうだな!何か、映像で見るのと全然違うぞ!」
1回の表、ホークス側の攻撃は三者凡退。
しかしながら、実際に自分の目で見るプロの技術はすごかった…
あっという間にキャッチャーミットに吸い込まれていくボール。
それを打ち返す打者、しかしすかさず白球の落下点を計算し、それを軽々とキャッチして見せる内野手…
映像という小さく切り取られた世界では見られない臨場感、それがそこにあった。
興奮に顔をやや紅潮させながら、きゃっきゃと笑いあう鬼の兄弟。
…さあ。
そしてこれからが裏のイニング、このZOZOマリンスタジアムのホームチーム・千葉ロッテマリーンズの攻撃である…


―と。
その時。
歌が聞こえた。
鼓膜を、心を、魂を揺さぶる、歌が聞こえた―



彼らは思わず、その視線をライトスタンドに飛ばした。
「…!」
それは、荘厳な歌声だった。
右翼外野席のマリーンズファンたちが、歌っている。
その歌声は球場の空気を震わせ、広がり、ざわめくそのムードを別の色へと塗り替えていく。
「すごいね、兄ちゃん」
「ああ」
「すごいね…!」
「…!」
二人の口から思わず出たのは、ただただ感嘆の声。
人間の、夢にまで見たプロヤキュウの試合。
鬼の彼らは知らなかった世界が、だからこそ今目にするこの光景が、何よりも威風堂々として映る―





Ooh oh oh oh oh oh, Wow oh oh oh oh oh oh
Ooh oh oh oh oh oh, Wow oh oh oh oh oh oh



(な…何だ?!これは…)


ナインの為に 我らは歌う!
今日の勝利は マリーンズのもの!



(全員が立って歌いながら…タオルを振り回している?!)


包まれていた。その場を支配する、圧倒的な空気感に。
ユニフォームを買い、外野席ライトスタンドに戻ってきた一角鬼…
だが、先ほどまでと一変してしまった空間に、彼はただ、立ち尽くすしかない。

(何だこの儀式は…『巨人の星』には、こんなこと書いてなかったぞ!)
男も、女も、少年も、老人も。
白にピンストライプのユニフォームを着た彼らは、皆一様にタオルを手にし、それをぐるぐると回しながら…歌っている。
心臓の鼓動を早めるようなスネアドラムの連打が、彼らをより一層に駆り立てる。
「…」
リズムが、変わる。
それをあらかじめ知っていたかのように、ファンたちの歌声は静かにやみ、空を舞っていたタオルが静かに降りていく。
その統率の取れた、まるで訓練された軍隊のような動きに、一角鬼は目を見張るしかなかった。
「どうしたんです?」
「!」
―と。
完全に威圧され、ぼーっと通路に立ち尽くしていた一角鬼に、かけられる声。
見ると、白いユニフォーム姿、黒縁メガネの男が、こちらをやや困った表情で見返している。
「あ、もしかしてこの席ですか?すいません、荷物今よけますんで…」
「あ、ああ」
通路端の席にいたそのひょろっと細長い男は、軽く頭を下げながら、隣のシートに置いていたリュックを抱え上げた。
…確かに自分の持っているチケットを見ると、そのすぐ隣の席が自分の場所のようだ。
ぺこぺこしながら荷物を避ける男に目礼して、自席につく。
「…す、少し聞いてもいいか?」
「はい、何か?」
「先ほどの、皆がやっていたのは、一体…」
「!…お兄さん、もしかして、外野はじめて?」
一角鬼の問いかけに、メガネが一瞬きょとん、とした顔になる。
この席を選んできたものなら、まず当然しないような質問だったからだ。
「は、初めてというか…ヤキュウをこうやって見に来ること自体が」
「そうなんですか~!それじゃあ、いきなり外野だとびっくりしましたよね」
「?」
眉をひそめる鬼に…とはいっても、今は頭のその角を隠しているので、ただの人間の男にしか見えないのだが…メガネはそう言って軽く微笑んで。
遠くで楽器を演奏している軍団を指さしつつ、説明を加えてやる。
「野球で『外野席』っていったら、ほら…あそこにいる応援団の人たちと一緒に、
みんなで立って応援歌を歌ったり、選手の名前を呼んだりしてチームを励ます席なんですよ」
「そうなのか?!」
「…で、『内野席』は、どっちかっていうとゆっくり野球を見たい人向け」
「…」
どうやら、ヤキュウの座席は、何処でも同じというわけではないらしい。
試合をどう楽しみたいかという点で、ナイヤとガイヤを使い分けるもののようだ…
「あの、もしよかったらこれどうぞ。僕、だいたい覚えちゃったんで」
「!…これは?」
「選手の応援歌とチャンステーマの歌詞カードです」
メガネがリュックから何やら取り出してきたのは、小さく折りたたまれた紙だった。
使い込まれているために端がよれたり折れたりしている紙、それを拡げてみると…小さな小さな文字で書かれた歌詞が、左上から右下までびっちり、とその空白を埋めていた。
その数、ちらり、と流し見しただけでも、30は超えている。
(こ…これを暗記、だと?!)
メガネはこれをすでに暗記した、と言った。
おそらく、このライトスタンドにいる者たち、その相当数が同じなのだろう…
先ほどのあまりに統制された動き、そこにはファンたちの努力が隠れているのだ。
「今度はこっちが攻撃ですからね…一生懸命応援して、何とか点とってもらわないと!」
「…」
熱を込めて言うメガネに、まだ状況を飲み込み切れていない長兄、うまく言葉を返せず。
それを、初観戦の(しかもZOZOマリンの外野席!)緊張のためと思ったのか、メガネは笑って手を振りながら言う。
「大丈夫ですよ、とりあえず周りの真似してみてください」
「あ、ああ」
メガネに励まされ、小さくうなずく一角鬼。
そうだ、何を憶するものか。
せっかくきたんじゃないか、夢に見た…人間の、ヤキュウ場。
楽しまなければ、損じゃないか!
そうと決まれば思い切りやってやろうじゃないか、この場にふさわしい行動ってやつを!
隣のメガネも、何やら親切そうだし…


一角鬼がそう心を決めた、刹那。
空を貫いた。男の絶叫が。


MARINES!!
『FIGHTIN'!!』


「?!」
そして、それに続く…自分の周りにいる人間、全員の呼応!
鋭い雄叫びに、一角鬼の心臓が跳ね上がる。
思わず視線を隣のメガネに弾き飛ばせば…その先にも、彼は驚くべきものを見る。
先ほどまでへらへら笑っていた、何だか気の弱そうな、人のよさそうな男…
その表情が、瞬きの間に様変わりしていた。
応援団のシャウトに答え、鬼気迫る顔で、彼もまた叫んでいる…
その顔つきは険しく、最早戦場の突撃兵のごとく。


MARINES!!
『FIGHTIN'!!』



続く手拍子!
ライトスタンドに立つ全員が、グラウンドを見据え、声を合わせ吼える。


L・O・T・T・E! Wow-oh-oh-oh LOTTE!
L・O・T・T・E! Wow-oh-oh-oh LOTTE!



野獣の唸り声のごとき音の洪水に包まれ、人間に偽装した男は…押しつぶされていた。
一角鬼の頬を、つうっ、とつたっていくのは、冷や汗。
自分が経験してきた百鬼帝国軍での地獄の訓練…そこですら、ここまでの気迫を感じることはなかった。
これが人間たちなのか、あの無力で惰弱な?
いや、そんなものはとんでもない思い違いだったのだ、我ら鬼の傲慢な計算違いだ。
嗚呼、だって、見ろよ…この連中を。
その眼はどいつもこいつも、ぎらついている。
チームの勝利を呼び込むべく、ナインに気力を送るべく…!




(な、何だこいつら…一体…!)



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恐竜王女の御幸(ミユキ) 運命は彼女を選択した

恐竜王女の御幸(ミユキ) 運命は彼女を選択した

人間たちがこの世の春を謳歌している、地上。
その遥か下。下。下の下の下。
灼熱のマグマが広がる地層に、とてつもなく巨大な街…いや、国がある。
ヒトならぬ、だが二足で歩行し、高い知能を持ち、秩序と社会を持つイキモノが生きるその国…
ハ虫類から進化した彼ら、ハ虫人たちの国…恐竜帝国。
まだ人間がネズミの親戚であったころ、彼らこそが地上を我が物顔に歩き回っていた時代があった。
それこそ、高度に発達した文明を持ち、自然と調和し…
しかしながら、彼らの歴史は突然、闇一色に塗りつぶされる。
怨嗟と悪夢、憎悪と混沌が、彼らのきらめく未来を塗りつぶす。
それはかつて、ただの地を這う蜥蜴だった自分たちを、知性あるイキモノへと変えた…
「知恵」を与えたはずのモノ、だった。
目に見えぬ邪悪が、天空に荒れ狂い。
音も鳴らぬ悪辣が、人々を傷つけ殺し。
ハ虫人たちは苦悩し、苦悶し、苦難の果てに…地上の楽園を捨てた。
持てる限りの技術力を駆使し、地下の世界へと逃げ去った。
眩しいばかりの太陽の光は、もう見ることができない。
陽光に照らされる地上は、最早あの邪悪なる女神の世界―


ハ虫人たちは、この屈辱の歴史を、「神話」の形で子孫たちに伝えた。
自分たちを地獄に叩き落した女神を、その神話の中でこう呼んで―



「滅びの風(El-「風」raine-「滅び」)」



だが。
ハ虫人たちの願いは、変わらなかった。
地上への憧れは、代を経て、また代を経て、強くなっていく。
あの世界へ。
太陽のきらめく、あの世界へ。
そう、いつか、今度こそ、あの邪悪なる女神の呪いを克服して―!



「…それは誠、なのか」
恐竜帝国・帝王の間。
報告を受けた帝王ゴールの表情は、硬く硬く強張っていた。
大司祭から受けた言葉が、あまりに唐突すぎ、そしてあまりに…残酷すぎたため。
「…はい」
老いた大司祭は、帝王の威厳の前にひれ伏しながら。
それでも、己が受けた神々からの言葉を伝える。
その衝撃的な言葉に色めきだったのは、帝王に使える重臣たちだ。
帝国軍大将バット将軍、科学技術庁長官ガレリイ長官…
普段は反目しあい足を引っ張りあう、まさに犬猿の仲たるその二人も、同じことを老婆に怒鳴っていた。
そう、それほどまでに、彼女の言葉は許されざる、まさに不敬なる言葉。
「何と言うことを!お主、自分が言っていることがわかっておるのか?!」
「『賢(さか)き尖兵』として、あの…ゴーラ王女様を送るべき、だと?!」
恐竜帝国の命運をかけた地上侵攻作戦、その第一歩。
その状況を探るべく放たれるべき、恐れを知らぬ勇者。
魑魅魍魎の跋扈するだろう、人間どものあふれる地上に送るべき人物。
それが、何故…
「馬鹿げておる、危険すぎるわ!何故、王女様でなくてはならんのじゃ!」
「それを問われたとて、このおいぼれに何がわかろうか!」
しかし、大司祭とて、罵倒されたとしてもそう言い返すことしかできない。
彼女は帝王の命どおりに神々に祈り、そして得た答えを伝える。
たとえ、神々が下された答えが、どんなに非道なものであったとしても。
「…ただ、宣託が。そう告げたのじゃ…それを、ワシはそのままお伝えしておるのみ」


彼女が帝王ゴールから受けた命。
旧き神々に祈り、託宣を得よ、と。
永い眠りの後、再び訪れた活動期…
ハ虫人の長年の悲願たる地上制圧、それを正しく成し遂げるために、まずは地上の状況を知らねばならない。
そのために送り込むべき、勇敢なる「賢き尖兵」…
それに選ばれるべきは誰なりや?
旧き神々は誰をお示しになるのか?


「やりなおせ!そんなもの、何かの間違いに決まっておる!」
「言われずとも!」
バット将軍の指弾に、きっ、と老婆は睨み返し、怒鳴り返す。
「言われずとも!ワシは…何度も祈り、神々に答えを乞うた!」
何日も、何日も。
同じ問いを偉大なる神々に繰り返す、という愚行を犯してすら。
だが、彼女がそうせざるを得ない、それほどまでに神々の答えは残酷だった。
「だが、同じじゃ…幾たび繰り返そうと!神々の示す答えは、ゴーラ王女様を指す!」
なじられる老婆は、目を怒りに爛々と燃え上がらせながら、それでも言を変えない。
彼女自身が出した答えではない。
そう、これは、旧き神々が与えた答えなのだ、と。
「この答えが意に添わぬなら、今すぐワシを斬り殺し、別の者に占わせればよかろう。
この婆が偽りを申しておる、そう思うのなら!」
老婆は曲がった腰を、それでもしゃん、と伸ばそうとしながら、はっきりと言い放つ。
その顔には、自負。
この祭政一致の国家たる恐竜帝国において、長きにわたり神々の言葉を承る司祭として生きてきた、という自負。
―すなわち。
神託に間違いはない、という自信。
たとえ神々が命じる内容が、どんなに酷薄なものであろうとも―


「…」
「…」



「だ、だが…ゴーラ王女様は、帝王ゴール様の長女であらせられる…王位継承権を持つ方を、そんな役目になど」
バット将軍の喉から、かすれ声が反論を絞り出す。
何より帝王の子は、次代を担うべき存在。
帝王を継ぐべき存在が、もし地上で果ててしまったら…?
「…王位継承権で言えば…『第二位』、でいらっしゃる」
「!…貴様、」
が。
ガレリイ長官がぽつり、と漏らした一言に、バット将軍の表情が変わった。
しかし、帝王の御前…バットとて根っからの阿呆ではない、その次に続くセリフは飲み込んだ。


―すなわち、「王位継承権『第一位』ではないから、たとえ死んだとしても問題ないと思っているのか?」と。


恐竜帝国は古く長い歴史を持つ…
そう、それこそ、現在地上に大量に蠢いているサルどもの子孫のものよりも、遥かに長く。
それ故、王政を構築する規範やしきたりも、また多く、古く。
帝王ゴールには、御子が二人。
長女は、ゴーラ…側室のひとりの生んだ、娘。
長男は、ゴール三世…正室の生んだ、息子。
恐竜帝国の長きにわたるしきたりは、彼らのたどるだろう未来を、彼らがこの世に生まれ落ちた瞬間に塗り分けていた。
恐竜帝国の帝王となるべきは、まず、男子。
そして、第一夫人の子女たるべし、と。
そのルールは、暗にゴーラに告げている。
お前はあくまで「王位継承権第二位」、ゴール三世に何らかの事態が起こった場合の「スペア」なのだ、と。
だが…


…がんッ。


はっ、となった二人が見返る先には、玉座におわす帝王。
不愉快気に玉座のひじ掛けをこぶしで打った鈍い音が、強制的にガレリイたちの会話を終わらせた。
必然的に、帝王の間には静寂が満ちる。
不愉快な、居心地の悪い、音のしない、間。
いや、その場にいる誰もが、帝王の様子をびくびくと伺っている…


「…帝王ゴール様」
「…」
「我々は、一体…どうすれば」


その間を割ったのは、困惑に満ちたバット将軍の声。
帝王は、無言。
将軍も、それゆえに、それ以上の言を継げない。
再び、生ぬるい無言がその空間を満たす。



「…」



十数秒か。数十秒か。それとも、それは数百秒か。



「…わかった」



―ようやく、と。
その、居心地の悪い空白を断ち切ったのは、吐息交じりの声。
帝王ゴールは、いったん目を伏せ…
再び眼見開き、一息で答えを吐き出した。
己の迷いも全て、捨て去らんとしているかのように。


「偉大なる神々が、我々にそう告げたのならば」

「…それに従うことこそ、この恐竜帝国の栄光がため」


「えッ?!」
「ゴール様!」
ガレリイ長官、バット将軍の両者ともが、動揺もあらわに声を上げる。
帝王はおっしゃられたのだ。
愛娘を地上への間諜として送り出す、と。
邪なる人間どもの蔓延る、あの場所へ…
それは、種族の命運を賭けた大きな作戦であり、また重大な選択。
他の者ではなく、彼の方自身の血を分けた者を、と…
…嗚呼。
だが、見よ。
偉大なる帝王の、その表情を。
その眼には光なく、感情を押し殺すあまりに、その表情はもはや色すらない。
「ゴーラにはわしが伝える」
「…」
「ガレリイ、バット。『賢き尖兵』を地上に放つための準備にかかれ」
「は、はっ…」
だから、それ以上バットたちも何も言えはしない。
何が言えるだろう、覚悟をした帝王を前に、親を前に。



「神々が、ゴーラを選んだのならば…」



帝王ゴールの声音は、厳かで落ち着いていた。
だが、だからこそ―傍仕えの者たちは確信する。
それは、諦念。そして、信念。
恐竜帝国の彼岸・地上進出を達成するために、己が愛しい娘を犠牲にするという―!



「その加護が、必ず。我が娘をお守りくださるだろう」



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百鬼百人衆角面鬼兄弟、やきう場に推参す。ZOZOマリンスタジアム編1

「はあ…」
「やっと見えてきた…アレ、だよな?」
「うん、兄ちゃん」
空の青、雲の白。
蒼天が凝結したような、さわやかなこの二色にぱっきりと塗り分けられた、巨大な建物。
角を隠し、人間に偽装した角面鬼兄弟…重い足を引きずって、ようやくスタジアムの姿が肉眼で見えるところまでやってきた。
そう、彼らはここまでの長旅ですっかり疲労してしまっていた。
東京の海岸外れ、人目につかない場所に潜水艇を止め、そこからまず東京駅まで電車で移動。
彼らの国である百鬼帝国にはない、その長くうねうねとした乗り物に興奮していたのも最初のうちだけ…
東京駅までも長かったが、次の乗り換えのために京葉線のホームまで移動する、その構内移動もまた長い。
さらに40分ほど電車に揺られ、やっと目的地の最寄り・海浜幕張駅に到着するも…
またそこからまだまだ歩かなくてはならない。
(マリーンズの公式サイトには海浜幕張駅から徒歩15分と書いてあるが、嘘だぞ絶対20分はかかるぞ)
…というわけで、さすがに彼らはへとへとになってしまったのだった。
それでも、ずっと行ってみたいと焦がれていた「ヤキュウジョウ」がもう目前なのだ…
長い歩道橋を歩いて交差点を渡れば、緑に囲まれたその向こう…三角鬼が指差す先に、夢の舞台が見える。
「あれが…ZOZOマリンスタジアム、だよ」
「…!」
兄弟の網膜に、その青と白が映り込む…
はあ、と、思わず二角鬼がため息を漏らしたのは、感嘆か、それとも安堵か。
「遠かったな…」
「すっごい海沿いじゃん、そこの海岸に潜水艇を止めれば」
「馬鹿野郎、人目に触れちまう」
わやわや言いながら階段を下りていく三馬鹿兄弟、だがその時。
「あっ…」
目を見開いた一角鬼、彼の目に映ったものは…
「…。」
「…。」
思わず、無言になってしまう三人。
それは、「ZOZOマリンスタジアム行」のLED掲示も鮮やかな白青のバスが、たくさんの乗客を乗せて軽やかにスタジアムへ向かっていく姿…
そう。
海浜幕張駅からは、おとな100円こども50円のスタジアム直通バスがあることを、彼らは全く知らなかったのである。





「わあー!」
「おお、こりゃすげえや!!」
それでも、スタジアムの正面に立った瞬間…今までの疲れを溶かしていくほどの興奮と喜びがわいてくる。
行きかう人間どもは、ヤキュウの戦闘服である「ユニフォーム」を着ているし、「ヤキュウボウ」をかぶっている者もいる。
若者だけかと思いきや、少年たちや親子連れ、年季の入ったユニフォーム姿の老人…
まさに老若男女問わず集っているのだ。
ここは、ZOZOマリンスタジアム。
この日本に12ある、ヤキュウで生計を立てるプロ集団…その一つ、「千葉ロッテマリーンズ」の本拠地だ。
とうとう、本物のヤキュウが見られるのだ…
百鬼帝国にはないスポーツ、「ヤキュウ」。
怨敵ゲッターチームが一員・車弁慶に近づくために、自分たちは一級資料「巨人の星」を読んでそれを学んできた。
けれど、もうそれだけじゃ物足りない。湧いてくる気持ちは、最早作戦のためだけのものじゃない。
自分たちでもやってみたい。
そして、見てみたい…プロのやるヤキュウを!
「…やっと、来れたな」
「ああ!」
うれしそうに言う一角鬼。力強くうなずく二角鬼。
「巨人の星」を読んで想像するだけだった舞台は、今ここにあるのだ。
「兄ちゃん!何か食べたい!」
―と。
三角鬼のすっとんきょうな声が、二人を現実に引き戻す。
彼はカラフルなテント群を示し、目をきらきらと輝かせている…
「おおー」
そのどれもこれもから、ほんわかといい匂いがしてくる。
看板には「牛タン」「ソーセージ」「焼きそば」などいう文字とともに、自分たちにはよくわからないがとにかくおいしそうな料理の写真がでかでかと載っている。
「何かいっぱいありすぎてわかんねー!」
「おお…すげえや、あっちのほうまでずらっとあるぜ」
しかも、それがずらり、と列を為す…
どの店にしようか、見て悩むだけでも時間がかかりそうだ…
「うーむ、めちゃくちゃ数があるな。悩んじまうぜ…」
長考に入ろうとした一角鬼、だがそこで末弟が気づいてしまう。
「…あっ」
「うめえわ、これ」
…見ると、次兄の二角鬼。
いつの間に買ってきたのか…ほくほくと湯気を立てる何かを喰っていた。
彼の手の中、「もちもちポテト」と書かれた包みの中に、にょろにょろと長い、揚げたらしきジャガイモ。
「お前…早すぎるだろ」
喰い意地の張った弟にあきれながら、一角鬼もそれをつまんで口に入れる。
ほくり、とほどける、なめらかな塩味。
「うまいうまい、揚げたてうまい」
「ずるいずるい兄ちゃんずるい俺も俺も」
「もっと寄越せ二角鬼」
男三人、あっというまに平らげてしまう。
そして、もちもちポテトで少しだけ食欲が満たされた兄弟は、とりあえずスタジアムの中に入ることにしたのだった。


「そういえば、チケット?はどんな席なの?」
弟に問われ、おもむろに一角鬼はチケットを取り出す。
自分たちではよくわからないため、人間社会に潜伏し情報を集めている百鬼帝国諜報部に依頼して手に入れたのだが…
「どれどれ、えーと…」
「…よくわからん」
「?」
細長い紙きれには、いろいろ細かい字で書いてあり、いまいち要領がつかめない。
球場案内図を見るが、それも見方がよくわからない。
三人雁首をそろえて、案内図の前で首をひねっていた、その時だった。
それを見かねたのか、つなぎを着た案内人らしき青年が近寄ってきた。
「お困りですか?」
「あっ…えっと、これはどこだろう?」
「ああ…お座席ですね?えーっと…」
青年は三人のチケットを見やり、図を示しながら説明してくれる。
…が、彼の答えは、三人の思いもよらないものだった。
「こちらの2枚は、三塁側の内野指定A。こちらはホーム外野応援席ですね」
「え?!」
「つまり、これ…俺たち全員同じ場所じゃない、ってことか?」
「はい」
何ということか。
諜報部の不手際で、まさかの兄弟バラバラ事件発生である。
「ええー?!そんなぁ…」
「ちっ、諜報部の野郎…適当しやがって」
「ど、どうしよう、兄貴?!」
混乱する二角鬼と三角鬼。
長兄は彼らを見やり、少しだけ困った顔をしたが…はっ、と短く息を吐いて、肩をすくめる。
「まあ、いいさ…それに、違う場所を選んだってのも、『偵察』としたらいい口実になるだろ」
「そりゃそうだけど…」
「何だ、お前ら?…心配するなよ、俺がこのガイヤオウエンセキ?ってところに行くぜ」
「!」
「お前らは二人でそのナイヤシテイAってところに行きな」
そう言いながら、一角鬼は外野席チケットを取り、残り二枚を二角鬼の胸に押し付けた。
「いいの?」
「構わねえよ」
「でも、一人じゃ危ないかも…」
「気にすんなって!大丈夫だぜ」
豪快な兄者はけらけらと気楽そうに笑ってみせる。
大体、ここはヤキュウ場…
観客として見に来た自分たちに、どんな脅威があるというのか。
「それじゃ…場所は違うけど、楽しもうぜ!」
「う、うん!」
「兄貴も、何かあったらすぐ連絡くれよな!」
そう言いながら、三人はそれぞれ教えられたゲートに足を向けた。


「ようこそ、マリンスタジアムへ!」
「は、はい」
チケットもぎりのお姉さんに笑顔を向けられ、ちょっと照れ笑いする三角鬼。
次兄と末弟は、無事ゲートを潜り抜け、マリンスタジアムの中に入った。
驚いたのは、「カバンを開けてください」と言われ、中身を見られたこと…
何だかよからぬものを持ってこないように、ということらしいが、そんなことは予想もしていなかった二人は、少しばかり面食らってしまった。
まあ、それでも、ともかく、無事中に入れたわけだ…
ざわざわと人が行きかう音が高い天井に反響していく、たくさんの人間たちがこのコンコースに…グラウンドと観客席を取り巻くスタジアムの大通路…あふれている。
「それにしても、すごい人だね…」
「ああ…うーん、この『通路番号』のところから、もっと中に入れるみたいだな」
先ほどの案内人に教えてもらった通路番号、それを探して二人はてくてくとコンコースを往く。
―と。
コンコースを飾る大きな装飾が、行く手に現れる。
「見て!これ、すごい!」
「おお…!」
三角鬼が、壁にあるそれに目を止めた。
同じくそれに目をやった二角鬼の表情が、笑顔に変わる…





―それは、大きなユニフォームを模したパネル。
そのあちこちに、マジックでメッセージが書かれている。
彼らが愛するチーム・マリーンズへの叱咤激励…
大きい文字、小さい文字。子どもが書いたようなかなくぎ文字も、さらさらと書かれた達筆も。
どれもこれもが、精一杯に叫んでいる。
選手たちに向かって、叫んでいる。

「…人間どもも、本当に『ヤキュウ』が好きなんだな」
「うん…」
見上げる二人の瞳に、感嘆の色。
自分たち鬼より、遥かに脆弱で愚昧な人間ども…
だが、そんな人間であれ、熱く燃える血潮は同じなのだろう。

祈りのモニュメントをしばし、見つめ。
「さあ、行こうぜ!」
二角鬼は自分の席に行こうと弟を促す。
「大丈夫かなあ、兄ちゃん…」
と。
足取りがやや重くなってしまう、末弟の三角鬼。
心やさしい彼は、人間だらけのこの場所でひとりぼっちになってしまった兄を案じているのだ。
「三角鬼、そんな心配するなよ!兄ちゃんなら大丈夫さ」
「うん…でも、せっかく初めてのヤキュウ観戦なんだからさ、三人一緒に見たかったなあ…」
「そだな…」
三人がずっと願ってきたヤキュウ観戦、初体験だからこそ三人で共にそれを分かち合いたかった…と、少しばかりしょんぼりする二人。
…が、そんなことを言っても、今更だ。
三人で一緒にヤキュウを見る、その機会はまたそのうち巡ってくるだろう。
だから、今日。
今を楽しまねば。
にっ、と笑顔一つ。二角鬼は弟に笑って見せて。
「…おい、まだ試合が始まるまで間があるから、何か喰おうぜ!」
「!…うん!」
そう言って、三角鬼を伴い、先に見える売店らしい場所に歩き始めた。



一方。
ホーム外野応援席へと向かった、一角鬼が目の当たりにしたのは…信じられないような光景だった。
白。
それは、白だった。
(く…何だ、これは?!)
見渡す外野席、男も、女も、皆一様に、白。
白の軍団が、その場を占拠していた。
(…ここらにいる連中…ほとんどユニフォームを着ている!)
そこにいるほとんどの者が、上半身に白いユニフォームをまとっているのだ。
その胸には"M"、それは誇らしき彼らのチームの徽章。
(何故だ?!まさか…これが何かのシキタリなのか?!)
あまりに一体感がありすぎて。
一面が白に染まるその様は、もう「制服(ユニフォーム)」というものを通り越して、まるで…一つの生物、巨大な群体のようにすら思える。
…つうっ、と、一角鬼の頬に、つたう汗。
威圧されていた。そのエリア全体が放つ空気に。
気おされてしまったその怯んだ心を奮い立たせなくては、その群体の中を割って自席へとたどり着くのも難しく感じるほどだ。
そう、そのためにはアレがいる…
あの群体の一部となるために、その威圧感の一部となるために。
…ユニフォーム。
通路を通りコンコースに出た一角鬼は、何やら応援グッズを売っているワゴンに向かう。
「…ユニフォームが欲しいんだが」
「はい!どちらのものに致しましょう?」
「う、ううっ…」
ボブカットの似合う、器量良しな女性店員が明るく問いかける。
しかし、一角鬼は困惑しきりだ…
何せ、彼女が示したユニフォーム…やたらとたくさんあるではないか!
「…と、とにかく白で!」
「はい、ホーム用ですね!」
目線を左右に数回往復させた後、それでもどれを選んでいいかなどわかりようもない。
ともかく、あの集団と同じ色であれば、浮きはしないだろう…
そう考えた彼が指差した白いユニフォームを、店員は「ホーム用」と呼んだ。
「ほーむ?」
「ここはマリーンズの本拠地ですので、選手はホーム用の白いユニ。
他の球場に行くときはビジター用の黒を着るんです」
「そうなのか…」
どうやら、この場所で戦う時と、他の場所で戦う時で服の色を変えるらしい。
なかなか面倒そうだ、と一角鬼は思ったりした。
「選手ネーム入りにしますか、それとも無地?」
「む、無地で」
どうやらあらかじめ選手の名前や背番号がつけられているものもあるらしいが、まだよくわからない。
とりあえずあの中にいられるだけの偽装でいいのだ、とばかりに、一角鬼は無地のユニフォームを指さす。
6500円のお買い上げである。
「タオルはいかがですか?この歌詞入りタオルとかおすすめなんですけど」
「そ、それもくれ」
店員に言われるままに、ホイホイと札を差し出す一角鬼。
軍資金として諜報部から受け取った日本の金…
諜報部員たちが非合法な手段で、しかも官憲に目をつけられぬよう秘密裏に準備していた金。
彼らがこの場面を見たら、きっと怒りのあまり鼻から血を吹くか、口から泡を吹くであろう。
世界征服のための作戦に使われるべき貴重な金が今、千葉ロッテマリーンズにやすやすと吸い込まれていく。
「後、このチケットホルダーもあると便利ですよ~!応援の時、ポケットからチケットが落ちたら大変ですからねー!」
「あっ、じゃあそれも!」
嗚呼。
さらに1300円、飲み込まれた。

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百鬼百人衆角面鬼兄弟、やきう場に推参す。~Prologue~

闇が蠢く。
憎悪と怒気を糧として。


「ええっ?!」
「に、兄ちゃん…それ、マジで言ってんの?!」
「ああ」


闇が揺らぐ、弟達の驚愕で生まれた波で。
だが、長兄は不敵に笑い返す、それは自信と傲慢。
「さっき説明したみたいな理屈をつけ足せば、ぐちぐち言われることなくできる…と思う」
「そ、そうかなぁ…」
末弟の戸惑いの言葉には、ただ苦笑で返すだけ。
次兄も最早何も言わず、ふうっ、と息をつくだけ。


闇が蠢く。
憎悪と怒気を糧として。
そのカタマリは―真っ白な、何かをその手に握っていた。
赤い刺繍の縫い目も鮮やかなそれを、「人間」は何と呼ぶのだろう―


「俺は行くぜ、止めても無駄だ」
「兄ちゃんだけずるい!俺も行くッ!」
「二角鬼、お前は?」
「そりゃ、うまく行くなら…俺も行ってみたい!」
「じゃあ、決まり…だな」


だが、弟たちも、兄の突然の提案に驚いてはいるが、決して反対ではないようだ。
いや、むしろ、彼らだって共に行きたいのだ―その場所へ。
そして、そんなことはとっくに長兄も理解していた。
だからこそ、こんな突飛な計画をぶち上げたのだ。
次兄と末弟の熱のこもった返答に、長兄はにやり、として。
弄んでいた右手の中のソレを…真っ白なソレを、ぼーん、と軽く投げ上げ…
ぱしり、と乾いた音が鳴る。
受け止めた彼の右の手の中、硬球がかすかに皮の匂いを彼の手に残す。



「さっそく行こうぜ…ヒドラーの野郎のところへ!」



「はあぁ?!貴様ら、何をアホなことを言っておる!」
ヒドラー元帥の執務室。
鬼の軍団・百鬼帝国の猛者たちを束ねる王であるブライ大帝の信任も厚い、軍事部門の最高責任者…
その配下たる帝国の精鋭たち、百鬼百人衆のメンバー、角面鬼兄弟…
唐突に執務室に押し入っては唐突なことを抜かす彼らの直訴、その内容のあまりの珍妙さに思わず声を荒げてしまう元帥。
しかしながら、三人は涼しい顔でそれを聞いている。
「俺たちゃいたってまじめなつもりですがね、ヒドラー元帥」
「いや、だが…貴様ら、」
長兄の一角鬼は、何処か演技じみた口調でそう言って、わざとらしく両腕を広げてみせる。
だが、ヒドラーは軍団長ともいえる立場だ。
帝国に危険が及ぶかもしれない無用の行動なら、部下に実行させるわけにはいかない。
「人間どもの偵察、とはいっても…何故、…ヤキウ場?とやらのところへ行くんだ?」
元帥の疑問は、至極もっとも。
何故、それが国家を動かす大物が集まる政府機関・国会や、多くの情報が得られるマスコミではないのか。
何故、ヤキウ?とかいうモノをする場所なのか?
何故、わざわざ軍のエリートである百人衆がそこを偵察したがるのか?
「そんなことなら、早乙女研究所へでも」
「そこなんだぜヒドラー元帥!」
と。
元帥が抱いた当たり前の疑念を、一角鬼はこれまたわざとらしい大声でかきけした。
そして、きっ、と、元帥をまっすぐに見据え、主張する。
「俺たちは、あまりにもゲッターロボ…早乙女研究所のところに注力しすぎじゃないですかい?」
「む?」
ここで、えへん、と、軽く咳払い。
角面鬼兄弟の次兄・二角鬼が、兄の言葉に加えて、続ける。
「いいですか?我ら百鬼帝国の最終目標は、この世界全てを手に入れることでしょう」
「…」
「それを邪魔するのが早乙女研究所…ですが、」
世界征服という大望を現実のものとするべく、そこに至るまでの標識(マイルストーン)を、もっと細かく打ち込んでいくべきだ、と。
「もうちょっと、『足場』ってやつを固めていくためにも…日本の各都市の制圧は必要でしょう」
ゲッターロボ、早乙女研究所というわかりやすい標的のみならず、地固めをしていくべきだ、と。
「そのためには、諜報部隊だけに任すんじゃなく…実際に百鬼ロボに乗って戦う俺たち百鬼百人衆がもっと現地を見ておくべき!」
二角鬼は理論で攻め込んでいく。
奥底にある、彼らの真の目的のことなど、欠片すら見せるふし無く。
うぬう、と、元帥がうなる。
疑り深く執念深いヒドラーは、それでも納得しきれていないようだ。
まず、第一に。
「だ、だが…その『ヤキウ』?というのは何なんだ?何故そこを偵察に?」
そう、ヒドラーは…いや、彼だけではない、百鬼帝国のほとんどの者は「ヤキュウ」を知らないのだ。
「おや、ヒドラー元帥ほどの方でもご存じない?」
が、それこそ彼らが好機。
やっと来ましたかその質問が、とでも言いたげな顔で、三兄弟がずずい、と前に歩み出た。
「『ヤキュウ』とは…世界の多くの人間どもが狂乱するスポーツなんだぜ!」
「大人から子供まで、幅広い年齢層をカバーしてるんだ!」
「だから、いつもたくさんの人間どもが『ヤキュウ』を見るため、そこに集まるんです!」
ここが勝負どころ。
なだれ込むように、三兄弟が一気にまくし立てる。
果たせるかな、元帥の表情が少し…変わった。
それを見逃さず、三人はさらに押し込んでいく。
とにかく何でもそれっぽいことを言えばいいのだ、理屈とサロンパスは何処にでもつく。
「それに、大量の人が集まる場所…その全員を何らかの方法で洗脳すれば、戦力の増強にもなるだろう!」
「そうそう!そういう大規模な作戦をちゃんと立てるためには、やっぱ俺たち、自分自身で見に行かなきゃダメだと思うんです!」
「それこそ、何処に何があるか、どういうタイミングで実行するのがいいか…とか、細かいことは自分の目で見たものしか信じられないですし!」
「ぬう…」
一気呵成の主張が途切れ、しばしの間。
腕組みした元帥が少し考え込むような様子を見せ。
十数秒置いて、はあ、と、脱力したかのようなため息をつき。
…そして。
「…まあ、構わん。他の百人衆の邪魔をしたり、無駄に目立って早乙女研究所のアホどもに見つかったりはするなよ」
「!…はい!」
「やったあー!」
「ありがとうございまーす!」
そう、それこそが三兄弟がヒドラーからひねり出したかったひとことだ!
望み通りの許可を得た角面鬼兄弟、文字通り飛び上がって大喜びだ。
ハイタッチなどかまして浮かれ騒ぐそんな姿は、当たり前だが、ヒドラー元帥を急に不安にさせた。
「…何だその喜びようは。お前ら、まさか何か…」
「んじゃこれで失礼しまあーっすぅ!」
「あっ、適切な場所を選ばなきゃいけないから、何回か別の場所も見に行ったりしてもいいっすよねぇ!」
「後、現地での費用も経費で落ちますよね!よろしくおなっしゃああああーっす!」
「おい、角面鬼兄弟!」
ヒドラー元帥が怒鳴っても、もう遅い。
「構わん」というヒドラーの言質を取った以上は、もう(まさに)鬼に金棒だ。
矢継ぎ早に聞き捨てならない条件を言い放って、脱兎のごとく執務室を飛び出す三馬鹿兄弟。
彼らに向かって思わず伸ばした右手が、所在なくだらり、と垂れ下がる。
(まったく…あいつら、何を企んでいるのだ?!)
ちっ、と舌打ちが自動的に漏れたのは、元帥の疑惑と苛立ち。
しかしながら、そんなヒドラーでも、さすがに予想だにしていない…
まさか、彼らの目的が「作戦にかこつけて、とにかくヤキュウを見たい」…そんなすっとこどっこいなモノだろうとは。

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