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それ行け!早乙女研究所所属ゲッターチーム(TV版)!

70年代ロボットアニメ・ゲッターロボを愛するフラウゆどうふの創作関連日記とかメモ帳みたいなもの。

バレンタインだよ!ヒドラー元帥!(がんばれ!ヒドラー元帥シリーズ)

地球という星の上で、暦は刻一刻と刻まれていく。
かつて、海や山で国々が寸断された昔ならまだしも、世界が通信網で覆われた今現在では、時差はあれどもその暦はほぼ共通。
すなわち、1年は12か月。1週間は7つの曜日。
そして、今年の今日、2月14日は…日曜日である。
それを僥倖と噛みしめ、感謝しているのは…何も、彼だけではないだろうが。


その男は今、あまり彼には似つかわしくない場所にいた。
いや、「潜んでいた」という方が正確か…
彼は、今、「ネットカフェ」にいる。
そう、あの若者たちが怠惰な時間つぶしに使う、マンガだのネットが使えるコンピュータだのドリンクバーだのがある、ああいった場所である。
彼は今までそのような場所に足を踏み入れたことはなかった。
しかしながら、今日この日、2月14日が彼にそうさせたのだ。
そのうえ、長いコートにサングラス、しかも似合わぬ長髪ウィッグまでかぶり、姿かたちを全く変えようとしているのだから。
狭苦しい個室の中、ドリンクバーでとってきたホットコーヒーを傍らに置き、うすぼんやりと光るパソコンのディスプレイ画面に向かい…
そこでようやく、彼は鬱陶しいサングラスとコートを取り、一息つくことができた。


彼の名はヒドラー、百鬼帝国軍の元帥である。


慈悲深く思慮深いブライ大帝は、世界征服を志す国家のトップとして凡百どもが考えがちな「独自暦の導入」に賢明にもNOを出された。
外の世界とのギャップをうめるための新たな手間をかけるだけの価値がない、と考えられたのだ。
それゆえ、今日は世界的にも、百鬼帝国的にも、2月14日。
一般には「バレンタインデー」と呼ばれる日である。


チョコレートで愛や感謝を伝える日。
百鬼帝国では、ブライ大帝がかつて日本という国で過ごしていたことから、日本と同じく主に女性から男性にチョコレートを渡す日とされている。
しかしながら、それがすべて純粋な思いであればいいのだが…
残念ながらそうはならない。
一方的にチョコレートを与えるだけなのはおかしい、と思う者がいるのも当然で。
その1か月後、それを「ホワイトデー」と称する。
バレンタインにチョコをもらった者は、すべからくホワイトデーにそのチョコをもらった者に「おかえし」をせねばならない…
そんな鬼の仁義、鋼の不文律が出来たのは、いつごろだろうか。
これにより、「バレンタインに、ホワイトデーのお返し目当てでチョコレートを配る」不届き者がはびこる…それがこの百鬼帝国でも常態化してしまった。
ヒドラー元帥は、心の底から菓子業界の陰謀を疑っているほどだ。
だが、彼がどんなに不平不満を訴えても、いったんできた世間の流れは最早変えられない。


そう、彼は、標的とされる人物であった。
愛ではない。
感謝でもない。
ホワイトデーのお返しに高額なモノを出すことを要求される、ただのかっぱぎ対象だ。


今日が日曜日であることは、大いに彼の助けになる。
何故なら休日であるため出勤しなくともよいから、女性の部下とも会う危険性がない。
月曜に出してこようものなら、「何を馬鹿なことを!とっくに過ぎておるではないか!」と却下すればいいのだから。
しかし、だからと言って自宅でまったりもできないのがつらいところ。
数年前、同様にバレンタインが日曜日に当たった時、自宅を襲撃してきた連中が多数いたためである。
そのため、緊急避難先として元帥が選んだのが…このネットカフェである。
こんな場所、今まで来たこともない。家からもかなり離れた街中だ。
また、百鬼帝国軍元帥がこんなところに来るなどと想像する者もいないだろう。
念には念を入れ、金髪のウィッグまでつけて、いつもの七三スタイルを隠している…
彼の予測通り、ここまで知り合いには誰にも会わずに来れた。
今現在、昼の1時…
「ゆったり!8時間パック」に2時間延長もするつもりだ、これなら今日を逃げ切れる。
娯楽の殿堂とはいえ、コンピュータがあるのはありがたい。
重要な情報を含む仕事はできないにせよ、作っておかねばならない書類作成くらいは出来るだろう…
ヒドラー総統は珈琲を一すすりし、気合を入れ…仕事を開始しようとした。



その時だった。



ぞ、と、背中を這い回る、悪寒がした。
それは視線。
見られている。
見られている。
気づいたとたんに、全身が硬直し、それなのに大汗がどおっ、と噴き出してくる。
振り返るな。
振り返るな。
振り返るな。
見るな、見るな、見るな見るな見るな見るな。
ああ、だが…気のせいかもしれない。
気のせいかもしれないじゃないか、そうだろう?
自分勝手な希望が、ヒドラーを動かしてしまう。
どうしても確認したくなってしまう。


ゆっくりと、彼は振り返る…
本能が叫んでいる、振り返るな振り返るな見るな見るな見るな。


ああ、だが…
見て、しまった。


ネットカフェ特有の間接照明だけに頼った薄暗い空間
やけに静まり返った、空調の音だけが流れる空気
ブースの入り口、扉のその上
光っている、ぎらぎらと光っている
目、目、
それは一対の…鬼の目!


「ひ、ひぎゃあああーーーーーーーッッ!」


ネットカフェに響き渡る、絶叫。
驚きのあまり、文字通り飛び上がってしまったヒドラー…
そのはずみでずれ落ちた金髪ウィッグが、ばさり、と無様に床に落ちる。
「クックック…見つけた、見つけ出したぞえ、ヒドラー元帥!」
「は、白髪鬼?!」
真っ白な長い髪を逆立てる、その壮年の鬼女は…百鬼帝国百人衆が一人、白髪鬼!
情報収集をも得意とする彼女は、ヒドラーの隠密行動など見破るのに容易すぎるものだったのか…
らんらんと輝く目は血走っており、正直マジで怖い。
「ここで会ったが百年目…さあ、覚悟はいいかえ?!」
「ひ、ひいっ…」
気迫。
それに一瞬押されたが、ヒドラーはすぐさま反撃に転じようと立ち上がった、
ブースの中に入られては…終わりだ!
「さあ!受け取るがよい!ワシのバレンタインチョコォ!!」
「い、いらん!結構だ!結構です!」
ブースの扉を全力で押してくる白髪鬼に、これまた全力で対抗するヒドラー。
思わず最後のほうで敬語になってしまったのは、しかし惰弱のあらわれか。
必死で入ってこようとする白髪鬼を押しとどめていると、そこにやって来たのは…ネットカフェの若い店員。
しかし、彼も味方ではない、決して。
面倒くさそうな、だるそうな口調で(そしてやたら間延びした口調で)、無表情気味にこう言ってくるだけだ。
「あのぉ~お客さァん、あぁんまりうるさくすっと他の人にめぇわくなんすよねぇ~」
「う、うるさい!見ておらんと助けんか?!」
「はぁ~~~~~~~~?」
目の前の客が、こんなにも冷や汗をだらだら流しながら、侵入者に恐怖しているというのに…
助けを求めても、だるそうに、やったら語尾を伸ばして間の抜けた声を漏らすだけ…
この無礼者が!処刑だ!と怒鳴り返すだけの余裕は今のヒドラー元帥にはない、
驚愕に見開かれた彼の網膜に、爪鋭い指で小さな何かを懐からつまみ出す白髪鬼の姿!
ああそれはチルルチョコ、20ブライ(注:百鬼帝国のお金の単位は「ブライ」。だいたい1ブライ=1円)で買えて幼稚園の子どもでも安心の駄菓子…
義理チョコにもほどがあろう、と言うそれを、包装も剥かずに。
「わかっておろうなぁヒドラー元帥!ほわいとでーは…三千倍返しぞえ!!」
「な、何ィ?!い、一般的には三倍…」
「問答無用ッ!!」
暴利、あまりにも暴利。
反論しようとして口を開けた、だがヒドラー元帥はそうすべきではなかった。
その間隙を割り、凄まじい勢いで繰り出される白髪鬼の一突き。
喉奥まで割り込む、暴虐の一突き(申し訳程度に、その先端にチルルチョコ)。
衝撃と激しい痛み。
強制的に喉奥に広がる甘味に混じって、血の味。
ついでに前歯が折れる嫌な音と感触が混ざり合い、とうとう、
ヒドラー元帥はショックで意識を喪失した。

遠くで店員のむかつく声が、やけに間延びして響く…

「おきゃくさーん、あんまり騒がれっと退店してもらうッスよぉ~~~~…?」



嗚呼、
がんばれ!ヒドラー元帥!
来年は火曜日だ、有給取って日本まで逃げようぜ!



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