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それ行け!早乙女研究所所属ゲッターチーム(TV版)!

70年代ロボットアニメ・ゲッターロボを愛するフラウゆどうふの創作関連日記とかメモ帳みたいなもの。

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誘拐狂詩曲(Kidnap Rhapsody)~affettuoso~

草原。
浅間山の裾野、少しばかり早乙女研究所からは離れた人気のない草原。
さわさわ、さわさわ、と、風が草の間を駆け抜ける。
低木を乱雑に薙ぎ倒して地面に座す飛行要塞グールは、その搭乗口を大きく開いていた。
そしてその周りには、異形たちの人だかり。
鋼鉄の兜をつけた皮鎧の兵士どもに、戦争映画の陸軍兵ども。
平和な光景には似つかわしくない、場違いな連中…
二人の少年少女を囲んで、だがその誰もが楽しそうに笑っている。
彼らは総出で賓客の見送りをしているのだ、自分たちが「人質」としてさらってきた者たちの。
「…それじゃあな、ゲンキ、エルレーン」
「気を付けてお戻りくださいね」
「うん!」
「だいじょうぶ!」
少年と少女に笑顔を向けるのは、鉄十字兵のルーカスと鉄仮面兵のグラウコス。
「いやあ、ほーんとメーワクかけちまって…ごめんなぁ」
「いいって、もう!」
何度も同じことを言うルーカスに、元気は笑って短く返す。
自分とともにバードスの杖を持って魂で戦ってくれた彼らに。
…共に苦境を乗り越えた戦友なんだ、もうこれ以上そんな詫びの言葉などいいだろう!
「ルーカスさんも、グラウコスさんも…元気でね!」
「おう!てゆうか、お前らもがんばれよな!」
「お二人も、どうぞお元気で…!」
サムズアップで答えるルーカスと、軽く一礼するグラウコス。
「ほんとありがとー!」
「もう君らには手ェ出さないから!ごめんねー!」
「よくがんばってくれた!ありがとうー!」
「元気でなー!がんばってなー!」
彼らと同じ格好の兵士たちも、皆口々に手を振り別れの言葉を二人にかける…
「!」
―と。
早乙女元気はその視界の端に、くるり、と背を向け艦内に戻ろうとした彼の姿を見る。
ぱっ、と駆け出す。兵士たちの間を縫って。
その細い右腕をぐっ、と伸ばし―
「ねえ!」
「…」
ぐっ、と掴んだのは、冷たい―軍服で覆われた、血の通わぬ鋼鉄の腕。
子どもに無理やり引きとめられた機械仕掛けの将校は、物憂げそうに目をやる…
何やら真剣な顔つきで自分を見つめてくる野球帽の少年、早乙女元気。
「あ、あの!ブロッケンさん!」
「…何だ?小僧」
「あ、あのね、あのね…」
「?」
元気は必死に何か言おうとして、けれどそのための言葉がうまく見つからなくて、
何度も何度もためらって、言うべきか言うべきかでないかを迷って、
それでも―勇気を出して、貴族将校の瞳を見つめ返した。
「僕の『名前』はね、早乙女元気!…『小僧』じゃなくて!」
「…?」
少年の意図がわからず、眉をひそめるブロッケン。
そんな様子の彼にもかまうことなく、元気は言葉をつなぐ。
「あのね、僕たち…また、会えるかな?!」


「僕たち、…『トモダチ』に、なれるよね?!」
「…!」


軽く、目を見開く。
何を言い出すのか、このガキは?
―この、残虐非道、悪辣非情、冷酷無比な鬼将校。
狂気の科学者・ドクターヘルに付き従う、地獄の死者たる自分に…「トモダチ」になろう、と、言っているのか?!
思わず腕を掴む少年の手を払ってしまう。
出し抜けの意味不明な提案に、多少なりとも動揺が伯爵の無表情な仮面に走る。
だが、見下ろす視線の先に在る小柄な少年は、何処までも真剣で…
まるで、自分に挑みかかるかのような勢いで、さらに続けるのだ。
「自分は『バケモノ』だなんてさ、そんな哀しいこと言わないでよ!
…僕が、なってあげるよ!ブロッケンさんの『トモダチ』に!」
「…」
一生懸命に言い募る元気。
彼の熱弁を、懇願を、ブロッケン伯爵は、しばらく呆然としたような顔で見ている。
「確かに、ただの…成り行き、なのかもしんないけど」
あの、男女が融合した怪人が、自分に言ってくれた。
「でも、ブロッケンさんは…エルレーンのお姉ちゃんを助けてくれた」
誰もが、自分なりに、自分にしか出来ないことを。
「だから、いつか…今度は僕が、僕たちが、ブロッケンさんを助けるよ!」
自らの行動を、「選んで」いけばいい、と。
選ぶことのできる者は、決して無実であるはずがない。
選ぶことのできる者は、決して無力であるはずがない。
お前は無実でも無力ではない、と。
「僕にだって、何か…何か、できることがある、…かも、しれないから!」
「…」
だから、己の出来ることをやればいい、と。


幼い少年の突拍子もない言葉に、伯爵はしばし言葉もなく。
その感情の宿らぬ黒い瞳が、唖然と少年を映したまま。
―しばしの、間。
だが、その空白は、不意に破れる。


「…ふふ、っ」


その微笑はどんどん度を越していき。


「く、ふふ…あっはっはっは!」
やがて、彼の唇から、こらえきれない笑い声がもれ出す 。
伯爵は、笑っていた。からからと、気持ちよさそうに笑っていた。
心底楽しそうに、笑っていた―


ブロッケン伯爵のその笑い声は、驚くほど毒気がなかった。
それこそ、普段彼の周りにいるものは一度も聞いたことがないタイプのものだ。
そうだ、彼は…伯爵は、普段こんな風に笑わない。
彼が普段その顔に浮かべるのは、冷笑、憫笑、嘲笑。
見る者のこころを凍てつかせ、いらつかせ、むかつかせる類の…
だが、この機械仕掛けの将校は笑っている…
あたかも、ただの、普通の「人間」のように。
その黒い瞳が、澄んで―笑っている。
その中に、早乙女元気の姿が映っている。


―嗚呼、そうか。
機械仕掛けの貴族将校は、やっと気が付いた。
小僧の「名前」…「ゲンキ(元気)」。
この国の言葉で、それは…Vitalitaet(生命力)をあらわすと言う。
…道理で、こんなにも、人を引きずり回すわけのわからないエネルギーに満ちあふれているわけだ!


それは伯爵に思い起こさせた…
遠い日の記憶、かつて失ってしまった、彼のたった一人の親友。
太陽みたいにエネルギッシュで屈託なく笑う、あの陽気な青年。
眼前の少年は、まるで彼のような陽性のまぶしさと力強さに満ちていた。
そう、自分を無理やり振り回してしまえるくらいに―!


両手がその生首をつかみ、本来その首があるべき場所にそれを据える。
そして、そのまま…軽く、ねじ込むような動作。
がしっ、がきっ、という、金属がこすれ、部品が結合する音。
軽くならすかのように、首を少し回す―
「!…な、何で笑うのさあ!」
「ふふ…!」
と、断ち切られていた首は、普通に…先ほどまでは「なかった」場所にくっついている。
そのまま彼は、軽くその茶色の髪をかきなぜた。
傍目から見たら普通の「人間」と何も変わらない、壮齢の将校がそこにいた。
―そう、自らが「人間」であることを少年に見せるかのように。
「ぼ、僕はもうそう決めたんだからね!決めたんだから!」
「…」
「…!」
ブロッケンの手がすうっと伸び、くしゃくしゃ、と、元気の頭をなぜた。
その手は、やはり冷たくて―だけど、決して不快ではなかった。
静かな、穏やかな微笑を浮かべた伯爵。
異形、「バケモノ」―そして、紛れもない、「人間」。
元気は、ブロッケン伯爵を見上げたまま、視線を外さなかった。
彼の微笑を、彼の姿を、網膜に焼き付けるために。
何故なら、元気にはわかっていたからだ…
おそらくは、今を最後にして。
もう二度と彼とは会えなくなるだろう、決して会うことを許されないだろうことを―
少年の思いもかけない申し出。
だが、伯爵は…微笑したまま、軽く首を振った。
「…小僧。お前は、我輩たちのことなど、忘れなくてはならん」
「…」
「そうだ…全て忘れろ。お前たちは、ただの悪い夢を見たんだ」


―だが。
「…ううん」
今度は、元気が、軽く首を振る。
そして、ブロッケンを見返す。


「僕、忘れないよ。…だって、夢じゃないもん」

「あしゅらさんやブロッケンさん達と、百鬼帝国と戦ったことも」

「ブロッケンさんがバイオリンを聞かせてくれたことも」

「一緒にトランプで遊んでくれたことも」

「…全部、全部、覚えてる。覚えてるから」


「小僧…」
確固たる思いあるいは自分勝手な強情さ。あるいはその両方。
元気は大きな両の目で機械仕掛けの将校を射抜く。
「お前は、本当に…強情な、」
その口が、もう一度罵倒の言葉を紡いだ…
「おかしな、ガキだな…!」
「…!」
敵意も悪意も全然含まれない、むしろ親愛の情。
ようやく元気にも、それがわかった―
「…じゃあな、小僧」
「…ブロッケンさん…」
けれども。
けれども、ブロッケンは―少年の「名前」を、呼ばない。呼ぼうとしない。
密やかな、だが断固とした、拒絶。
だが、それがわかっていてもなお、元気はさらに言葉を継ぐのだ。
「あのね、ブロッケンさん」
「…」
「僕は…会えてよかったと思ってる」
「…!」
「ブロッケンさんや、あしゅらさんに会えて…本当に、よかった!」
「小僧…」
きっぱりとそう告げる元気を、ブロッケンは複雑な表情で見下ろしていた。
それは、軽い驚きのようでもあり、動揺のようであり、罪悪感のようであり…そして、喜びのようでもあった。
…が、やがて、彼も破顔一笑する。
モノクル(片眼鏡)が陽光に反射し、きらりと光った。
別れの時に、わざわざ哀しい顔などしても仕方ない―
だから、笑顔で。
この生意気で我がままで意固地な、そしてこのような「バケモノ」である自分を「トモダチ」と呼ぶ、イカれたこの少年にだけ見せる笑顔で。
「…お前、ガキにしては…なかなか根性が座っておったぞ!」
「…へへん!」
「小僧、元気でな!」
「うん…ブロッケンさんもね!」
にやり、と笑う。それは、不敵な笑み。
伸ばした右手をお互い、握手代わりに打ち合わせる。
ぱぁん、と、小気味のいい音が鳴り響いた。
そして…二人は、もう一度、笑んでみせた。


長身の化生と向き合うのは、エルレーン。
その透明な瞳に、奇怪なアンドロギュヌスを映しこんで。
「それではな、小娘よ」
あしゅら男爵は柔らかな口調で彼女に告げる。
「…いろいろと、すまなかったな」
「ううん…もう、いいの」
弱々しく微笑んだ少女は、ゆっくりと首を振る。
「…」
「…」
ふつり、と、すぐに会話は途切れてしまう。
それを何だかもどかしく思いつつも、二人はどちらも互いから目をそらさないし、歩み去ろうとはしない。
何かを言おうとして、言えない。
何を伝えればいいのか、何を伝えたいのか、見つけられなくて。
エルレーンも。あしゅらも。
だから、二人の合間に、奇妙な空白。
さわさわ、さわさわ、と、渡る風が草を揺らす音が、やけに耳に大きく響く。


「小娘」


ようやく口火を切れたのは、あしゅら男爵の方だった。
「なあに?」
「…」
ぱっ、と問い返すエルレーンに、だが、彼はまた言葉を失ってしまう。
けれどもやがて、たどたどしく…男女の声がユニゾンしながら、男爵の迷いを紡ぐ。
「―本当ならば、もう二度と会わぬのだから。
『せいぜい達者でいることだ』、とでも言うべきなのだろう」
そうだ。
誘拐犯とその被害者など、何度も何度も会うべきものでもない(そんなことを望む被害者が何処にいるものか!)。
「だが、何故か」
そんなことはわかりきっていながら、それでもあしゅらは…こう言ったのだ。
「…お前とは、また会う気がするのだ。この世界の何処かで」
「…」
透明な瞳が、かすかに惑う。
エルレーンが見つめる目の前の怪人もまた、何だか困惑したような表情を浮かべていた。
そして、「また会う」…
それが意味することが分からないほど、彼女も(そして怪人も)愚かではない。
確かに、早乙女研究所はドクター・ヘル一味にとって対立する陣営ではないものの。
しかし早乙女研究所が光子力研究所の盟友である以上、
悪の天才科学者の宿敵であるマジンガーZの盟友である以上…
そこに生まれるのは互いを破壊しつくす戦い、それ以外にない!
事実、あしゅらは光子力研究所への攻撃材料としてエルレーンと元気をさらおうとしたのだから…


だが。
にもかかわらず、それが明白なのにもかかわらず、あしゅら男爵はそう言ったのだ。
それは予感か、予言か、それとも単なる彼自身の欲なのか。
エルレーンにとってその言葉は決して不快ではなかった。
もしかしたら、自分自身もそう思っていたからかもしれない。
うっすらとだが厳然と消えない矛盾、両価性(アンビヴァレンス)。
だから、あえてそれには触れずに。
自分たちの間に新しくできた、あの「約束」にこそ、想いを乗せる。


「…その時は」
にこり、と、エルレーンは微笑。
「その時は、きっと」
いつか来るかもしれない、哀しい「未来」しか生まないかもしれない、その日。
だが、だからこそ、今は、今だけは。
自分のこころを救ってくれた、大切な女(ひと)のことばを想い出させてくれた、
彼女と同じように強いこころをもった、「母親」のようなこのひとのために。
本来の自分たちの記憶を失った、さまよい人たるこのひとのために。
「私に教えてね…あしゅらさんの、本当の『名前』」
「…!」
エルレーンは、半男半女の化生を見つめ。
そうささやいて、微笑った。
星空の『約束』。他愛もない『約束』。
男爵は、少し驚いた顔をして。
そして、その後、
「ああ」
あしゅら男爵も穏やかに微笑む。
静かに響く、男爵の声。
男女両方の声色が、絡み合って不思議なハーモニーを為し、響き渡る。


「私は、そう『約束』したな…!」


こくり、と、うなずく。
エルレーンが、笑んだ。
男の鋭い瞳が、女の切れ長の瞳が…少女を映す。
見据える。
透明な瞳の少女を。
あの、鬼神のような荒ぶる戦いぶり。
恐竜帝国の「兵器」。
「母親」の幻影に惑わされ、黄泉路に片足を踏み入れようとした「子ども」。
―目の前の、「死にたがり」の少女。


「では…」


あしゅら男爵が、笑んだ。
女の青い瞳、男の黒い瞳。
二色の瞳に映る、少女の姿…
奇妙で、哀れで、凄絶な運命を負う娘。
小娘のくせに。
子どものくせに。
強くて、もろい。とてつもなく冷酷で、やさしい―


「―『また、いずれ』」


これが、あしゅらが選んだ台詞。
彼は「ひとときの」別れを告げる。
あしゅら男爵が、笑んだ。
この自分に遠き日の記憶すら思い出させた、いとおしい娘に―




「…『死にたがり』の小娘、エルレーンよ!」




「行っちゃった…」
「行っちゃった、ねえ…」
空に浮かぶ黒点が、どんどんとどんどんと小さくなっていく。
舞い上がった戦艦の巨体が見る見るうちに握りこぶし大となり、黒点となり、光の中に消え…
その様を手を振りながら見送っていた元気とエルレーンの二人。
そう、もう草原には彼ら二人ぼっち…
あの兵士たちの集団は、首無し騎士(デュラハン)は、半男半女の怪人は、もう空の彼方、だ。
夏の草原は、まぶしい太陽にぎらぎらと照らされ、風が熱を孕んで吹き渡る。
ほんの少しまではやかましかった空間が、今では静かな風の音しかしない。
拍子抜けするくらいに、穏やかな、ただの夏の風景だ。
「…」
「…」
草原。
浅間山の裾野、少しばかり早乙女研究所からは離れた人気のない草原。
さわさわ、さわさわ、と、風が草の間を駆け抜ける。
ここから歩いていくのは結構大変だが…
ふ、と、どちらともなく、笑いが漏れる。
けれど、二人は元気いっぱいだ。
大冒険のフィナーレなのだ、がんばって行こう。
両手いっぱいに思い出を、奇妙な「トモダチ」との思い出を抱えて…!
「さあ…研究所まで帰ろう、元気くん!」
「うん!」

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